Up 横並びの重層構造 作成: 2007-02-05
更新: 2007-02-05


    つぎはエスニック・ジョーク (『世界の日本人 ジョーク集』の新聞広告に載っていたもの):

      (船が沈んでいるので乗客は海に飛び込まねばならない。躊躇する乗客の背中を押すことばは,)

        アメリカ人に対しては,「英雄になれるから飛び込め」
        イギリス人に対しては,「紳士だから飛び込め」
        ドイツ人に対しては,「規則だから飛び込め」
        イタリア人に対しては,「女性にもてるから飛び込め」
        フランス人に対しては,「飛び込むな」
        日本人に対しては,「みんな飛び込んでいるぞ」

    言うところは,横並びは日本人の特徴であるということ。


    法人化の国立大学も「国立大学法人評価」への対応において,横並びを自分の特質として顕している。 <批判精神>を売り物にしているはずの大学がこのていであるから,横並び指向・横並び意識は確かに日本人の体質と見てよいようだ。

    そして研究的立場から興味深い事実として,つぎのことがある:
      上部の横並び路線は,下部での横並びを誘導する。
       ──下部の構成員が自発的に彼らの間の横並びを形成する
    すなわち,横並びは重層構造をつくる。

    横並び施策の<強さ>──批判にびくともしない強さ──の要素の一つに,この重層構造がある。

    以下,一例を示そう。


    法人化の国立大学では,「報奨」制度をいろいろな形で導入している。 「国立大学法人評価」ではこれをすることが加点要素になっている (と大学執行部は信じている)。 そしてこのとき,報奨制度をつくったという<名>をとりたいために,無理/無茶をする。

    「報奨」は,本質的に無理/無茶をする構造になっている。
    「報奨」は,多様な個の中から優良な個を選ぶ。 これができるために,多様な個を優劣で序列化された個にする。 優劣で序列化するための手法は,試験。 ──試験は,個を試験の点数に変える。数は大小関係で整列化できる。ここに,多様な個の序列化が実現される。
    このような試験は,大学では無理/無茶なものになる。 実際,分科を横断できるような試験は成立しない。

    ところが,報奨制度をつくったという<名>が欲しくて,無理/無茶を承知の「報奨」をやる国立大学が現に出てくる。 この無理/無茶を通す手法は,全員が「諾」を言う横並びを醸成すること。

    横並びを醸成するテクニックは,「不公平」のことばを使うこと。
    大学人は,「不公平」ということばに弱い。 おそらくイデオロギー的な背景・歴史があると思うのだが,「不公平」のことばが出てくると思考停止してこれに屈服することが,習い性になっている。 「不公平」の意味・内容を考えるということが,できない。

    つぎは,無理/無茶な「報奨」制度が実現する過程のシミュレーション:

    1. 他大学との横並び指向から,無理/無茶な「報奨」を大学執行部が言い出す。
    2. あるブランチはこれを受け入れる。
    3. 受け入れるブランチが出てくると,横並びするブランチが出てくる。 キーワードは「不公平」。
    4. 「無理/無茶であり,できない」を回答するブランチに対しては,執行部が「自分たち執行部がやる」「各系は報奨対象者を推薦すること──推薦されてきた者の中から執行部が選ぶ」と下知する。
    5. ブランチの系のレベルでは,推薦に関する横並びが形成される。 キーワードはやはり「不公平」。


    横並びの重層構造