Up (5) 学部における教員養成を巡る現状と主な課題  


以上のように教員養成の充実強化が強く求められているが、教員養成学部を取り巻く状況には、次のような厳しいものがあり、教員養成に携わる教職員が自信を持って、より生き生きと諸課題に取り組んでいくためには、新たな対応が必要となっている。

1 教員就職率の低下
教員養成学部は、教員養成の専門学部として、地域の学校に優秀な人材を輩出してきた。昭和50年代は約2万人の入学定員を擁し、卒業者の教員就職率も8割近い数字を示していた。

しかし、少子化の影響を受け、昭和50年代後半から教員就職率が減少し、平成7年度には5割を下回り、平成12年度には33.7%まで低下している。なお、前述の教員養成課程の5千人削減完了後の入学者が卒業する平成16年度には、教員就職率が6割程度に改善されることが期待されている。


2 教員養成学部卒業者のシェア
公立学校の教員採用者に占める教員養成学部(教員養成課程)卒業者の割合は、小学校で60.1%、中学校で37.6%、高等学校で14.7%であり(平成12年度)、この率に近年大きな変化はない。

開放制の趣旨からいって、様々な学部の卒業者が学校現場にいることは望ましいことであるが、教員養成学部に対しては、優秀な教員を養成することにより、教員就職率の向上や義務教育諸学校の教員のシェアの拡大が図れるよう、努力することが求められる。


3 教員養成課程の規模の縮小と新課程の増加
教員養成課程の入学定員は、新課程への改組が始まる直前の昭和61年度には約2万人であったが、少子化の影響を受け、その後年々減少してきており、平成13年度は9,750人となっている。他方、新課程は年々増加し、同年度で6,180人であり、学部全体の入学定員15,930人のうち38.8%を占めている。

これに伴い、新課程の入学定員が教員養成課程の入学定員と同じ、あるいは上回っている大学が13大学にのぼっており、教員養成を目的として教育研究活動を展開する学部としての基本的な性格が揺らいでいるとの指摘もあるなど、今後の在り方が改めて問われている。

また、各学部ごとにみると、教員養成課程の入学定員が少ない学部が相当数生じてきている(例えば教員養成課程の入学定員100人以下の学部が16学部、101人〜200人の学部が16学部で、それぞれ全体の3分の1ずつにのぼっている。)。これに伴い、例えば次のような問題が生じてきている。
・   日常の様々な教育研究活動において、学生の活力を引き出すためには一定の規模が必要であるが、それが困難となってきている。
・   入学者選抜に当たって、前期日程、後期日程、推薦入学に分けて募集すると、中学校教員を養成する課程の場合、教科によっては募集単位が数人になるなど極端に少なくなることがあり、支障が生じてきている。



4 教員組織の現状
教員養成学部は、主として義務教育諸学校の教員養成を行っており、小学校及び中学校の10教科の教員免許に対応する教員をそろえるだけでも相当数の教員組織が必要(例えば、小学校と中学校10教科の大学院修士課程を置く場合は85名、これに幼稚園と特殊教育の専攻が加われば95名の教員が必要)であり、多くの教員養成学部では、この最低基準を若干上回る程度の教員組織となっている。
このような現状では、各教員養成学部とも等質的な教員組織にならざるを得ず、多様な教育内容・方法を盛り込んだ教員養成カリキュラムを編成し、幅と厚みのある充実した教育研究を展開することが困難となっている。

今後、教員養成学部が新たな教育課題に積極的に取り組むとともに、幅と厚みのある教育研究を推進していくためには、なお相応の教員数が必要となってくるが、厳しい財政状況の下、教員の増加を図っていくことが困難な状態にある。このため、1学部当たりの教員組織の充実を図っていくための方策を検討していくことが求められる。

また、教員養成学部がどのような目的・理念の下で、どのようにして教員養成を行っていくかということやカリキュラムの在り方等に関して各教員のコンセンサスが不十分であり、そのことが教員養成学部としての専門的な立場を明確にし、教育全体のまとまりと特性を発揮していく上で大きな障害となっている。


5 新課程の位置付け
前述のように、新課程の入学定員は教員養成学部の入学定員の約4割に達しているが、その内容をみると次のように大別できる。
・   環境教育、情報教育、国際理解教育、カウンセリング・マインドの育成等教員の職務に密接に関連する分野
・   生涯教育、社会教育、生涯スポーツ等の指導者養成や児童福祉等学校教育に関連する分野
・   社会福祉、地域政策等地域の企業や公共的機関で必要とされる人材養成に関する分野
・   芸術文化、総合科学、国際文化等教養に関する分野


これらの新課程に対しては、次のような好評価がなされている面もある。
・   もともと教員養成学部は、教員志望の者だけでなく、広く地域の高校生の進学希望に応えてきたが、新課程の設置によって更に多様な進学希望に応えられるようになった。
・   新課程の設置によって、多様な授業科目が開設され、それが教員養成課程の学生にも提供されることにより、教員として求められる幅広い知識や教養を身に付けさせるのに役立っている。


他方で、新課程に対しては、次のような問題点も指摘されている。
・   教員養成を目的としない課程の設置によって、教員養成の専門学部としての性格があいまいとなっている。
・   同一の教員が教員養成課程と新課程の両方を担当しているため、学生に対する教育研究指導の責任体制が双方において不十分となっている。
・   教員養成学部の教員の中には、ややもすると教員養成という目的に関心が薄い者がいるが、教員養成を目的としない課程が設置されたことによって、教員の教員養成への求心力を失わせている。
・   新課程は、もともと既存の教員組織の範囲で教育課程を編成し、教員養成学部の中に置かれているため、設置の趣旨が十分に発揮されていないケースがある。また、その課程の今後の発展という点において限界がある。


新課程のこれまでの実績を踏まえて、それぞれの新課程の性格をより明確なものにし、設置の趣旨をより発展させていくためには、教員養成学部の組織として設置しておくことが適当かどうかを検討すべき時期に来ているといえる。