Up (3) 教員養成学部としての独自の専門性の発揮  


1 教科専門科目の在り方
学校教育は様々な活動からなるが、「教科の授業」を中心に展開されていることは論をまたない。学校の教員は、授業を通して子どもたちの能力を引き出し、個性を育てる努力が求められており、教員養成において、教科専門科目にどのような目的・内容を持たせるかが重要な意味を持っている。

教科専門科目の分野は、理学部や文学部など一般学部でも教育されている。教員養成学部の独自性や特色を発揮していくためには、教科専門科目の教育目的は他の学部とは違う、教員養成の立場から独自のものであることが要求される。必ずしも共通認識があるわけではないが、教員が教科を通して教育活動を展開していくということを考えれば、「子どもたちの発達段階に応じ、興味や関心を引きだす授業を展開していく能力の育成」が教員養成学部の教科専門科目に求められる独自の専門性といえよう。
各大学・学部において、一般学部とは異なる教科専門科目の在り方についての研究が、より推進されることが望まれる。

        (小学校教員養成の場合)
小学校は、人間が成長していく過程で、子供から少年へと成長し、人格を形成していく最も重要な時期である。子供一人一人の成長にも個人差があり、小学校教員にはそれに対応した教育が求められている。小学校教員を養成する場合、学生にこのような資質能力を身に付けさせることが必要である。

小学校教員を養成するために、教科専門科目としてどのようなことを教授すべきかについては、免許法において具体的に定められているわけではない。したがって、各大学でその内容を研究し、構成していかなければならない。例えば「理科」を考えた場合、物理学、化学、生物学、地学をそれぞれ区々に教授するのではなく、大学の教員が協力して「小学校理科」という大学レベルの科目を構築していくことが求められる。

小学校教員養成のための教科専門科目の在り方については、従来から様々な議論があるが、小学校における教育の特性を考えると、何をいかに教えるかという小学校における教育の充実のため、教科専門と教科教育の分野を結びつけた新たな分野を構築していくことが考えられる。従来から、その必要性が指摘されながら両者の連携が必ずしも十分ではなかったという実態があるが、その在り方を研究するのは、教員養成学部をおいて他にはなく、教員養成学部が独自性を発揮していくためにも率先して取り組まなければならない分野であり、これまで以上に関係者の連携協力を図り、それを構築していくことが教員養成学部の特色の発揮につながっていくと考えられる。

現在、小学校教員免許を取得する学生のほとんどがいわゆるピーク制(全教科にわたって広く履修するとともに、特定の教科あるいは分野について深く専門的に学ぶこと)によって履修している。その理由としては、
・   学生の側に特定の分野を深めたいという専門志向が強いこと
・   学生の帰属を分散させることで、責任ある指導体制が確保できること
などがあげられる。また、教員への就職の必要性から多くの学生が小学校と中学校教員の免許を併せて取得しており、中学校の教科を選択することによって自動的にピーク制につながっているという実態がある。

今までのピーク制をみると、前述のように併せて取得しようとする中学校の教科がピークになっているのが実状である。そのようなカリキュラムの設定も否定されるべきではないが、小学校教員養成の独自性の発揮を考えた場合、例えば情報教育や環境教育、国際理解教育、カウンセリング・マインドに関する分野などをピークとして構築していくことも考えられる。

小学校教員養成にとって、教科専門科目をどのように編成していくかは重要な課題である。特に平成10年の免許法の改正により、それまで小学校教員養成に必要な教科専門科目が「9教科各2単位、計18単位」であったものが、「1教科以上8単位」となった。このことにより、各大学においてピーク制の在り方も含め、小学校教員養成のためのカリキュラムの在り方を検討していくことが今まで以上に重要となっている。

(中学校教員養成の場合)
中学校教員養成のための具体的な教科専門科目は、免許法によって定められている。中学校教員は多くの一般学部でも養成しており、それだけに中学校教員養成の教科専門科目の在り方については、教員養成学部の独自性の発揮が求められる分野である。単に一般学部とは専門科目の修得単位数に違いがあるというのではなく、その内容に本質的な違いがあってしかるべきである。基本的には、生徒の発達段階や他教科との関連性をも踏まえてどのような授業を展開すべきかということを内容とすることが、中学校の教科専門科目の特色と考えることができる。

なお、現在、高等学校教員の免許も、教員養成学部で取得することが可能となっているが、近年の学問や科学技術の進展とその適切な教育を考えると、高等学校の教員免許の取得は、それぞれの教科に関連する専門の学部に委ねた方がよいのではないかという意見がある。
現在の免許制度では、中学校と高等学校とで共通する科目が多く、両方の課程認定を受けることが比較的容易であるため、両方の認定を受けている大学が多いのが現状であり、学生への配慮から課程認定は受けておいた方がよいという事情もある。このことは、教員免許制度とも関連することであり、ここでは将来の課題として指摘しておきたい。


2 教科教育法(学)の在り方
教科教育法(学)は、免許法上は教職に関する科目の「各教科の指導法」として位置付けられるものであるが、教科専門と教職科目を結びつけるものとして極めて重要な分野である。この分野は、教育技術的なことを教授するにとどまることなく、今後、教科教育担当教員と教科専門担当教員とが協力して教員養成学部が独自性を発揮していくための重要な分野として充実を図っていくことが期待される。

また、教員養成カリキュラムの体系性を強化していく上で、各々の教科教育法(学)が関連性を追求しつつ、各教科共通的、横断的な専門分野を構築していくことが期待される。



3 教職専門科目の在り方
教職専門科目は、教職の意義や教育の基礎理論など、どの学校種の教員にも共通に要求される普遍の分野である。教員養成の共通的科目として、優秀な教員の養成という観点から、いろいろな分野の教科専門を教員養成という目的に収斂(れん)させる重要な役割を持っている。

特に、平成10年の免許法の改正により、現在の学校現場の実態に対応するため教職科目が充実され、その重要性は改めて強調されている。

教職専門科目は、教員養成学部が教員養成という目的に沿って、その内容を深化、発展させていく場合の基本となる教育分野である。実践的な教員の養成という観点から、その現状について点検・見直しを行い、充実を図っていくことが必要である。