過去の気温変動のデータから,つぎの関係が得られる:
太陽黒点数が減る [増える] と,気温が下がる [上がる]
地球大気圏に進入の宇宙線量が増える [減る] と,気温が下がる [上がる]
また,観測されることとして,
太陽黒点数が減る [増える] ときは,太陽磁場が弱く [強く] なるとき
そして,理論的に導かれることとして,
太陽磁場が弱く [強く] なると,地球大気圏に進入の宇宙線量が増える [減る]
雲量が増える [減る] と,気温が下がる [上がる]
ここで,以上の関係の構造化を考える。
浮かんでくるのは,つぎの因果関係である:
太陽活動が弱く [強く] なって,太陽磁場が弱く [強く] なる
⇒ 地球大気圏に進入する宇宙線の量が増える [減る]
⇒ 雲量が増える [減る]
⇒ 気温が下がる [上がる]
ここでは,つぎの関係が仮定になっている:
地球大気圏に進入する宇宙線の量が増える [減る] と,雲量が増える [減る]
さて,これは本当か?
ここにデンマークの物理学者 Svensmark の登場となる。
地球大気圏に進入した宇宙線は窒素や酸素の原子核と衝突して二次粒子を生成するが,これが雲凝固核をつくることになる,という説を唱えた。
宇宙線二次粒子の生成とは,つぎのような感じのものである (シミュレーション画像):
Svensmark (2008), p.46
このように生成されてくる粒子のうち,エネルギーの強いものが地表近くにまで達する:
Svensmark (2008), p.52
Svensmark (2008), p.112
さて,この仮説はどこまで検証できるか?
これまで取り組まれていることは,つぎの実験である:
大気圏を模した箱室をつくる。
この中で,電子を創成するしくみが雲凝固核を安定的に産生するかどうかを観る
Svensmark の SKY実験では,宇宙線の代わりにγ線を電子創成ビームとして使い,雲凝固核の安定的産生を一定程度観た。
CERN の CLOUD 実験は,SKY実験と同様のことを宇宙線を人工的につくって 行うものだが,こちらの方は雲凝固核の安定的産生を観たとはなっていない。
しかしいずれにしても,宇宙線から雲までの全プロセスは,実験で検証できることではない。
それは,プレートテクトニクスが実験で検証できることではないのと,同様である。
スケールが人の手に余る複雑系は,<状況証拠が揃った>という形で当否を決めるのみなのである。
宇宙線から雲ができるかどうかを知るためには,雲の精確な観察をいまから開始する他ない。
実際,雲の精確な観察は,これまで意識的に行われては来なかった。
なぜか?
このようなことをしても業績にならなかったからである。
何かが腰を据えた体で取り組まれるためには,<餌>が必要なのである。
引用文献
Svensmark, H., Calder, N. (2008) :
The chilling stars - A new theory of climate change
Totem Books, 2008.
桜井邦朋[監修], 青山洋[訳]『"不機嫌な太陽" ──気候変動のもうひとつのシナリオ』, 恒星社厚生閣, 2010.
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