気象学が「コリオリ力=見かけの力」を導入する仕方を,確認しておく。
設定は,自転体上の直進。
ここで「自転体上」の「上」は,on ではなく over である。
即ち,自転体の回転から独立していることが,肝心なところである。
「自転体上の直進」をつぎのように措く:
角速度 \( \Omega \) で自転する円板
この円板上 (over) の速度 \( \bf{v} \) の移動
この移動が,いま円板の中心 \( O \) に向かっている

円板に寝そべってこの移動を見上げるとき,時間 \( \Delta t \) の移動がつぎのように見える:

速度 \( \bf{v} \) が速度 \( {\bf{v}}' \) に転向しているが,これは自分が回転しているせいである。
しかし,この観察者は「その転向は自分が回転しているせい」がわからない者であるとしよう。
この者は,転向を加速度のせいにする。
この加速度は,つぎの \( \bf{a} \) である:
\[
\frac{ {\bf{v}}' - {\bf{v}} }{ \Delta t }
\longrightarrow {\bf{a}} \quad ( \Delta t \rightarrow 0 )
\]
\( {\bf{a}} \) を計算しよう。
(但し,以下の計算は気象学のものとは違う──気象学は「角運動量」を持ち出す。)
つぎのように座標軸を設ける:

\( v = | {\bf{v}} | \) とおくと,\( {\bf{v}} = ( v_x,\ v_y ),\ {\bf{v}}' = ( v'_x,\ v'_y )\) は:
\[
v_x = -v \\
v_y = 0 \\
v'_x = - v\ cos( \Omega\ \Delta t ) \\
v'_y = - v\ sin( \Omega\ \Delta t ) \\
\]
そして
\[
\frac{ v'_x - v_x }{ \Delta t } \ \
= v\ \frac{ 1 - cos( \Omega\ \Delta t )}{ \Delta t } \ \
= v\ \Omega^2\ \Delta t\ \frac{ 1 - cos( \Omega\ \Delta t )}{ ( \Omega\ \Delta t )^2 } \\
\ \\
\quad \longrightarrow 0 \quad ( \Delta t \rightarrow 0 ) \\
\ \\ \ \\
\frac{ v'_y - v_y }{ \Delta t } \ \
= - v\ \frac{ sin( \Omega\ \Delta t ) }{ \Delta t } \ \
= - v\ \Omega\ \frac{ sin( \Omega\ \Delta t ) }{ \Omega\ \Delta t } \\
\ \\
\quad \longrightarrow - v\ \Omega \quad ( \Delta t \rightarrow 0 ) \\
\]
よって,
\[
{\bf{a}} = ( 0, - v\ \Omega )
\]
質量に加速度を乗じると力になる。
質量に加速度 \( \bf{a} \) を乗じたときの力を,気象学は「コリオリ力=見かけの力」と言う。
しかし「見かけの力」なら,わざわざ主題化する必要はないのである。
「見かけの力」に用途は無い。
実際,自分が回転していることを知る者には,「見かけの力」は見えない。
この者には,直進軌道の回転が見える。
直進の直線が曲がって見えることはない。
直進は直進として見えるのみである。
「曲がって見える」は,「目が節穴」という話
以上が,「見かけの力」の正しい文脈である。
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