Up 気象学は「コリオリ力」の謬説を発信する :
白木正規『百万人の天気教室』
作成: 2022-07-08
更新: 2022-07-08


    ここでは,気象庁が発信する「コリオリ力」として,白木 (2022) のコリオリ力の解説 (pp.22-24) を取り上げ,これがどんなふうに間違うかを示す。

     註: 白木 (2022) のコリオリ力の解説を気象庁のものと定めるのは,白木の経歴に「気象大学校長」があったからである。(気象大学は,気象庁の施設等機関。)


    白木 (2022) のコリオリ力の解説 (pp.22-24) を,全文引用する:


    この論の前半は,コリオリ力を「見かけの力」と定めるものである。
    このストーリーは,つぎのように言い換えられる:
    時計は円板の上を針が動いているが,この関係を逆にしたモデルを考える:
      \(O\) から真っ直ぐ伸びる道 (固定) と,\(O\) を中心に左回転する円盤
    円盤の端に \(B\) がいて,道の端に \(C\) がいる。
    道の上には,\(O\) に駅 \(A_0\) があり,そして駅 \( A_1, A_2, A_3,\) ‥‥ が順に続く。
    時刻 \(t_0\) で,道の先の方向に \(B\) と \(C\) がある。
    時刻 \(t_0 < t_1 < t_2 < t_3 <\) ‥‥ に対し,駅 \(A_i\) は時刻 \(t_i\) にのろしを上げる。
    \(B\)と\(C\)は,つぎつぎに上がるのろしを目で追う。
    \(C\)には,のろしが真っ直ぐ自分の方に向かってくるのが見える。
    一方\(B\)には,のろしが自分の左の方にどんどんそれていくのが見える。
    これは道の方向の直角方向に,見かけの力が働くためである。
    この見かけの力がコリオリ力である。


    コリオリ力は,こんなものではない。
    リアルな力であり,「見かけの力」なんかではない。


    コリオリ力の設定は:
    1. \(O\) を中心に回転する円盤
    2. 円盤上の,\(O\) から縁に向かう真っ直ぐな道
    3. この道の上を直進しようとする物体

    そして,コリオリ力の内容は:
      《物体は,道の外にはみ出てしまう》

    即ち,円盤の回転方向を左とすると:
    • 物体が円盤の縁に向かって動き出すとき,物体には右向きの力が働く。
    • 物体が円盤の中心に向かって動き出すとき,物体には左向きの力が働く。


    どうしてこうなるのか?
    円盤上の点は,左方向に回転している。
    その回転速度は,回転の中心からの距離に比例する。
    物体が円盤の縁に向かって動くことは,左回転速度がいまより大きい場所に移動することである。 このとき物体は,慣性によって,右むきの力を受ける。
    物体が円盤の中心に向かって動くことは,左回転速度がいまより小さい場所に移動することである。 このとき物体は,慣性によって,左むきの力を受ける。

    この力は,物体の動く速さに比例する。
    動かずにいれば,この力は無い。
    このリアルな力が,コリオリ力である。


    「コリオリ力=見かけの力」論は,どこを間違っているのか?
    「コリオリ力=見かけの力」論は,動く物体──白木(2022) では「ボール」──を扱っていると思っている。
    しかし「のろし」の言い換えが示すように,動く物体を扱ってはいないのである。
     註: 「のろし」は,動かない物体 (コリオリ力のはたらかない物体) の方便である。


    白木(2022) からの引用文の後半は,間違って捉えたコリオリ力からの推論である。
    よって,付き合っても無駄となるものである。

    <地球表面を運動する物体にはたらくコリオリ力>の正しい捉えは,こちら:


  • 引用文献
    • 白木正規 (2022) :『新 百万人の天気教室 (2訂版)』, 成山堂書店, 2022.