Up 気象学は流体力学を閑却する 作成: 2022-07-13
更新: 2022-07-13


       白木 (2022), pp.18-26
    2.7 気圧傾度力
    ‥‥ 空気塊に働く水平方向の力は, 空気塊の側面の気圧による力である。
    ‥‥ 水平方向の気圧差によって生じる力を, 気圧傾度力という。
    気圧傾度力は, 等圧線に直角で、気圧の高い方から低い方へ向かう力である。‥‥
    等圧線に直角な方向に気圧の変化が大きいところほど, 気圧傾度力は大きい。‥‥
    2.8 気圧傾度力の原因
    ‥‥ 水平方向の温度差から気圧傾度が生じる。‥‥
    2.9 コリオリ力
    ‥‥ 空気塊に働く力が気圧傾度力だけであれば, 風は等圧線に直角に吹くはずである。 しかし‥‥実際の天気図では, 風はほぼ等圧線に沿って吹いている。
    風の吹く向きは, 北半球では, 低気圧の部分が左になるような方向である。
    これは, 運動する空気塊には, 気圧傾度力だけでなく,次に述べる転向力も働くためである。 この力は発見者にちなんでコリオリ力ともいう。‥‥
    2.10 地衡風
    ‥‥ 等圧線が平行に分布しているとき, 空気塊は‥‥ 気圧傾度力により等圧線に直角に, 気圧の高い方から低い方へ動き始める。
    空気塊が動き出すと風速に比例したコリオリ力が働き, 北半球の空気塊は右に曲げられて進む。
    やがて‥‥ 気圧傾度力とコリオリ力は大きさが等しく向きが反対になり,空気塊は等圧線に平行に進むようになる。
    このように, 気圧傾度力とコリオリ力が釣りあった状態で吹く風を地衡風という。‥‥
    2.11 傾度風と旋衡風
    観測の結果によると, 高度約1kmより上で吹く風は, 地衡風に近いことが知られている。ところが, 等圧線の曲率が大きい場合, 空気塊には気圧傾度力とコリオリ力のほかに遠心力も働き, 地衡風とはちがった風になる。
    この場合に吹く風を傾度風という。‥‥
    台風の中心付近や竜巻・トルネードのように,現象の規模は小さいが, 強い低気圧の渦の場合には, コリオリ力は遠心力や気圧傾度力に比べて非常に小さい。
    この場合. 遠心力と気圧傾度力の釣りあいで風速が説明できる。
    このような風を旋衡風と呼ぶ。‥‥
    2.12 温度風
    二つの高度 (上層および下層) の地衡風のベクトル差を温度風という。
    温度風には風という名前がついているが, 実際に空気が動く風とはちがうものである。 温度風と呼ばれるのは, 定義となっている地衡風の差が, 二つの高度間の層厚の平均気温の水平分布によって決まるためである。‥‥


    「コリオリ力」の誤解から始まっている論なので(はな)からナンセンスなのだが,そのことを脇に置くとしても,流体力学をまったく閑却した論である。

    気象学は,空気の動きを「気圧勾配 → 空気の動き」で解釈する。
    しかし流体力学だと,空気の動きは「速度勾配・流体粘性 → 空気の動き」で捉えることになる。


    実際,気圧勾配は,空気の動きの原因ではなく,空気の動きの結果である:
    • 空気の動きが渦を成し,収束した空気の出口が上空になるとき,そこは「低気圧」になる。
    • 空気の流れの系は,上空の空気を引き降ろしつつ空気が拡散するスポットを生じる。 そこは「高気圧」になる。
      そして拡散する空気は,内部の速度差と流体粘性により,渦をつくっていく。
    気象学は,空気の動きと気圧勾配の因果を,取り違えているのである。


    渦巻の向き (左回りか右回りか) も,速度勾配・流体粘性で説明することになる。
    気象学は,「コリオリ力」を誤用することでこの作業をサボっている(てい)である。

    空気の速度勾配を発生させるものは,第1に既成/惰性 (大気の大循環) である。
    第2に,地勢である。
    そして第3くらいに,空気内部での運動エネルギーの差である。
      運動エネルギーに差があるということは,全エネルギーから運動エネルギーを引いたエネルギー,即ち「熱エネルギー」と呼んでいる内部エネルギーに,差があるということである。
      よって,「第3に,空気内部の運動エネルギーの差」は,「第3に,空気内部の温度差」と言い換えられる。



  • 引用文献
    • 白木正規 (2022) :『新 百万人の天気教室 (2訂版)』, 成山堂書店, 2022.