Up 気圧モデル 作成: 2022-07-26
更新: 2023-09-07


    風船を手で潰そうとしても,潰れない (せいぜい風船を破裂させるくらい)。
    潰す力に抵抗しているのは,風船の中の空気の存在である。
    ゴム膜で覆った鉄をを手で潰そうとしても,潰れない。
    潰す力に抵抗しているのは,ゴム膜の中の鉄の存在である。

    しかし,潰れない理由の立て方が,空気の場合は特殊である。
    即ち,以下に示す理屈を立てる。


    ウォーミングアップ
    データ :「空気は,窒素 (分子量 28) 80%,酸素 (分子量 32) 20% の組成
    よって,
      「空気の分子量」= 28 × 0.8 + 32 × 0.2 = 28.8
    アボガドロ数を
      \( N_A \) = 6.02 ×1023
    とすると,
      「空気分子の質量」= 28.8 ÷ \( N_A \) = 4.78 x 10−23 グラム

    データ : 1モルの気体の体積は,常温 (0°C) 常圧 (1013 hPa) で約 22.4リットル = 0.0224 m3」(Wikipedia「モル体積」)
    よって,つぎは「常温常圧の空気」の状態:
      「体積 0.0224 m3 の立方体の箱の中に,空気分子が1モル存在」


    空気分子の運動速度と空気圧の計算
    文字を \( M, m, V, a \) を,つぎのように措く:
      \( M \) = 空気 1mol の重さ = 0.0288 [kg]
      \( m \) = 空気分子の質量 [kg]
      \( V \) = 空気 1mol の体積 = 0.0224 [m3]
      \( a \) = 体積が \( V \) の立方体の1辺の長さ [m}

    空気分子は,ランダムに飛び交っている。
    空気分子の速度ベクトルを,箱の3組の対面方向 (x, y, z 方向) 成分に分ける。
    そして,<空気分子が壁に衝突>が壁に与える圧力を,x方向で対面する2つの壁のうちの1つSで考える。


    分子のx方向の速さを \( v_x \) m/s とする。
    分子は,S→対面の壁→S の移動に \( 2a / v_x \) 秒かかる。
    これは分子1個がSと,毎秒 \( v_x / 2a \) 回衝突するということ。
    箱の中の分子すべてでは,毎秒 \( N_A\ v_x / 2a \) 回の衝突。

    分子1個の衝突がAに与える力は?
    Sが受けるこの力は,力積で考えるとしている。
    この力積は,衝突による分子の運動量の変化量と等価。
    その変化量は:
      \[ m v_x - ( - m v_x ) = 2 m v_x \]
    よって,全分子の毎秒 \( N_A\ v_x / 2a \) 回の衝突は,Sに毎秒つぎの力を与える:
      \[ (2 m v_x) (N_A\ v_x / 2a) = m N_A\ {v_x}^2 /a = M {v_x}^2 /a \]
    これの m平方あたりの力──圧力 \( p \) ──は,
      \[ p = (M {v_x}^2 /a) / a^2 = M {v_x}^2 /a^3 = \frac{M}{V} {v_x}^2 \ [Pa] \]

    変形して,
      \[ p V = M {v_x}^2 \]

    この式の左辺に,理想気体の状態方程式
      \[ p V = n R T \\ R = 8.31 \bigl[ \frac{J}{mol \cdot K} \bigr] \\ \]
    の右辺を代入する。
    いまは,
      \[ n = 1 \ [mol] \\ T = 273 \ [K] \]
    の設定なので,つぎのようになる:
      \[ R T = M {v_x}^2 \\ {v_x} = \sqrt{ \frac{R T}{M} } = \sqrt{ \frac{8.31 \times 273}{0.0288} } = 281 [m/s] \]

    また,
      \[ p V = n R T \\ V = 0.0224 \ [m^3] \\ \]
    から,
      \[ p = \frac{R T}{V} = \frac{8.31 \times 273}{0.0224} = 101278 [Pa] = 1013 [hPa] \]


    地上の気圧の実際値とドンピシャリ!気圧モデルは正しい!」と思わないこと。
    ドンピシャリなのは,ドンピシャリになるように \( R \) の値を決めているからである。
    上の計算は,トートロジーをやっているのである。

    さて,あなたはこの「気圧モデル」を受け入れるかな^^