風船を手で潰そうとしても,潰れない (せいぜい風船を破裂させるくらい)。
潰す力に抵抗しているのは,風船の中の空気の存在である。
ゴム膜で覆った鉄をを手で潰そうとしても,潰れない。
潰す力に抵抗しているのは,ゴム膜の中の鉄の存在である。
しかし,潰れない理由の立て方が,空気の場合は特殊である。
即ち,以下に示す理屈を立てる。
ウォーミングアップ
データ :「空気は,窒素 (分子量 28) 80%,酸素 (分子量 32) 20% の組成」
よって,
「空気の分子量」= 28 × 0.8 + 32 × 0.2 = 28.8
アボガドロ数を
とすると,
「空気分子の質量」= 28.8 ÷ \( N_A \) = 4.78 x 10−23 グラム
データ : |
「1モルの気体の体積は,常温 (0°C) 常圧 (1013 hPa) で約 22.4リットル = 0.0224 m3」(Wikipedia「モル体積」)
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よって,つぎは「常温常圧の空気」の状態:
「体積 0.0224 m3 の立方体の箱の中に,空気分子が1モル存在」
空気分子の運動速度と空気圧の計算
文字を \( M, m, V, a \) を,つぎのように措く:
\( M \) = 空気 1mol の重さ = 0.0288 [kg]
\( m \) = 空気分子の質量 [kg]
\( V \) = 空気 1mol の体積 = 0.0224 [m3]
\( a \) = 体積が \( V \) の立方体の1辺の長さ [m}
空気分子は,ランダムに飛び交っている。
空気分子の速度ベクトルを,箱の3組の対面方向 (x, y, z 方向) 成分に分ける。
そして,<空気分子が壁に衝突>が壁に与える圧力を,x方向で対面する2つの壁のうちの1つSで考える。
分子のx方向の速さを \( v_x \) m/s とする。
分子は,S→対面の壁→S の移動に \( 2a / v_x \) 秒かかる。
これは分子1個がSと,毎秒 \( v_x / 2a \) 回衝突するということ。
箱の中の分子すべてでは,毎秒 \( N_A\ v_x / 2a \) 回の衝突。
分子1個の衝突がAに与える力は?
Sが受けるこの力は,力積で考えるとしている。
この力積は,衝突による分子の運動量の変化量と等価。
その変化量は:
\[
m v_x - ( - m v_x ) = 2 m v_x
\]
よって,全分子の毎秒 \( N_A\ v_x / 2a \) 回の衝突は,Sに毎秒つぎの力を与える:
\[
(2 m v_x) (N_A\ v_x / 2a) = m N_A\ {v_x}^2 /a = M {v_x}^2 /a
\]
これの m平方あたりの力──圧力 \( p \) ──は,
\[
p = (M {v_x}^2 /a) / a^2 = M {v_x}^2 /a^3 = \frac{M}{V} {v_x}^2 \ [Pa]
\]
変形して,
この式の左辺に,理想気体の状態方程式
\[
p V = n R T \\
R = 8.31 \bigl[ \frac{J}{mol \cdot K} \bigr] \\
\]
の右辺を代入する。
いまは,
\[
n = 1 \ [mol] \\
T = 273 \ [K]
\]
の設定なので,つぎのようになる:
\[
R T = M {v_x}^2 \\
{v_x} = \sqrt{ \frac{R T}{M} } = \sqrt{ \frac{8.31 \times 273}{0.0288} } = 281 [m/s]
\]
また,
\[
p V = n R T \\
V = 0.0224 \ [m^3] \\
\]
から,
\[
p = \frac{R T}{V} = \frac{8.31 \times 273}{0.0224}
= 101278 [Pa] = 1013 [hPa]
\]
「地上の気圧の実際値とドンピシャリ!気圧モデルは正しい!」と思わないこと。
ドンピシャリなのは,ドンピシャリになるように \( R \) の値を決めているからである。
上の計算は,トートロジーをやっているのである。
さて,あなたはこの「気圧モデル」を受け入れるかな^^
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