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田中邦彦 (2013)
──現在の宇宙服の医学的な問題点は何だと思われますか?
可動性が低いのと、減圧症の危険性があるという2つが大きな問題です。
宇宙には空気がないんですね。そこで空気が入った宇宙服を着ます。すると、外部との気圧差によって宇宙服がパンパンに膨れ上がってしまい、非常に動きにくくなるんです。普段はやわらかい風船が、パンパンに膨らむと容易に曲げられなくなるのと同じです。
それを解消するために、内部の気圧を0.3気圧(ロシアの宇宙服は0.4気圧)にしていますが、それによって減圧症を起こしてしまうのです。
──減圧症とは?
私たちは主に酸素と窒素を吸っていますよね。国際宇宙ステーション(ISS)の内部は地球と同じ1気圧です。その環境から0.3気圧まで低くなると、血液中の酸素や窒素が血液に溶けきれなくなって、気泡になって浮き出てくるのです。ちょうど、ビールから炭酸の泡が出てくるのと同じです。その気泡が肺や体内細胞に詰まって、命にかかわるのが減圧症です。
それを防ぐために、船外活動の前に血液中の窒素を少しずつ出します。この「脱窒素」に時間がかかるのが問題なのです。
スペースシャトルの時代は、脱窒素に12時間以上もかかっていたそうです。最近は脱窒素の方法を改善したことで数時間に短縮されたようですが、それでも、何か船外で問題があった時に、宇宙服を着てぱっと外へ出られないんです。
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