Up 日々の天気を大局的に理解する法
── 風の流線=等圧線=等温線,気圧傾斜=気温傾斜 ──
作成: 2023-05-03
更新: 2023-05-27


    天気は日々変化する。
    しばしば,大きく変化する。
    この変化は,何がどうなっているのか。


    1. 気温

    空気は流れている。
    それが「風」である。
    そこで,つぎのようになる:
      《気温は,風がこれを運んでいる》
    そしてこれより,
      《風の流線は,等気温線である》

    こうして,つぎの命題となる:
     《 日々の気温の違いは,通過する風がどこから流れてくるかの違いである
    ──寒いところから流れてくる風か,それとも暖かいところから流れてくる風か》


    2. 高層天気図

    「寒いところから流れてくる風か,それとも暖かいところから流れてくる風か」は,地上天気図からはわからない。
    風の流れは,地勢によって大きく攪乱されるからである。
    そこで,風の大局的な流れをとらえるために,高層天気図を用いる。

    高層天気図は,日本の「気温が日々変化するしくみ」を見ようとするときは,北極中心の北半球 500hPa 面天気図を用いることになる。
    以下「高層天気図」と言うときは,これを指す。


    3. 気圧・等圧線

    地上天気図には等圧線 (等気圧線) が書かれている。
    「気圧」とは何か。
    空気粒子の密度──濃い・薄い──である。

    地上天気図と高層天気図の大きな違いは,「等圧線」に代わって「等高度線」になっていることである。
    500hPa 高層天気図だと,「この地点は,上空 ○m が 500hPa」を観測し,その高度が同じになる地点を線でつなげる。 これが「等高度線」である。
2023-04-03 09:00, 500hPa面天気図 (Wyoming Weather Web から引用・編集)
数値は,高度 (単位 m)

    この等高度線は,等圧線と同じ感覚で使える。
    即ち,高度の高低が気圧の高低と同値になる。


    4. 風の流線=等圧線=等温線

    高層天気図では,風の流線が等高度線に表されることになる。
    これは当然のことである。
    気圧は,空気の密度である。
    密度は,風がこれを運んでいる。
    よって,風の流線は,等圧線である。

    先に,《風の流線は,等気温線である》と言った。
    よって,つぎの3つは同じである:
      風の流線
      等高度線
      等気温線


    5. 低緯度ほど,気温・気圧が高い

    気温は低緯度になるほど高くなる。
    日射量が低緯度になるほど多くなるからである。

    そして高層天気図では,気圧が低緯度になるほど高くなる。
    これは,つぎの2つのダイナミクスの複合ということになる:
    1. 空気の粒子には,地球の回転による遠心力がかかっている。
      この遠心力ベクトルの地表面成分は,低緯度側に向かう。
      低緯度側に集まる空気は,上方が逃げ道になる。
      空気層が厚くなると,気圧が高くなる ( 「気圧」とは )。
    2. 空気の密度が同じであれば,温度が高いほど気圧が高い (「ボイル=シャルルの法則」)。
    そして高緯度側と低緯度側の気圧差は,粒子間の押し合いへし合いのダイナミクスにより,気圧傾斜の形で均衡する。

    以上まとめて:
      《低緯度ほど気温・気圧が高い ──気圧の高低と気温の高低が重なる》


    6. 鉛直対流

    先に《気圧・気温は,低緯度になるほど高くなる》と言った。
    そうすると等圧線・等温線は極中心の同心円模様になるはずだが,実際はもっと複雑になっている:
2023-04-03 09:00


    一方,この模様でも,気圧の傾斜と気温の傾斜が重なっている。

    この模様は何かというと,鉛直対流の上昇流渦柱と下降流渦柱の束を表している。

    上昇流があれば,下降流もなければならない。
    鉛直対流は,上昇流と下降流のセットになる。
    上昇流と下降流は,流れがスムーズになるように互いの位相を調整する。
    この結果が,《上昇流と下降流が互いに逆回転の渦柱になって隣合う──これの束》の配列 (「ベナール渦」) である:


    上昇流の渦柱は,上の2つの天気図では,局所的な<低気圧=低温>領域がこれになる。

    なぜ低気圧と低温が対応しているのか?
    上昇流は,上空に膨張する(てい)である。
    よって,密度が小さく,そして温度が下がる。
    下降流は,地面に対して圧縮される(てい)である。
    よって,密度が大きく,そして温度が上がる。

     註: 膨張する空気は温度が下がり,圧縮される空気は温度が上がる。

    上昇流の渦は,上空から下に見て,左回転になっている。
    そして上昇流渦柱の間を,右回転の下昇流渦柱が埋めている。
    (右の天気図をクリックし,拡大図で風の流れを確認せよ。)

    上昇流渦柱が左回転で下降流渦柱が右回転なのは,なぜか。
    これは,複雑系の科学の謂う「創発 emergence」「進化の不可逆性」に類することであり,「地球の進化の過程でこうなった」と言うのみである。


    7. 等圧線の含意

    以上をまとめて,等圧線/等高度線からはつぎの3つが同時に読めることになる:
      • 気圧 (空気の密度) の傾斜
      • 気温の傾斜
      • 風の流れ


    8. 前線

    上昇流と下降流の渦回転に周りの空気が連動する。
    つぎのような風の流れになるわけである。
左回転の風と右回転の風を,それぞれ白と黒で表示


    そしてこの風の流れは,温帯の緯度だと前線を発生させることになる: