Up 偏西風の形状──幅と厚さの比 作成: 2023-01-08
更新: 2023-01-08


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地表
900 hPa 面
850 hPa 面
700 hPa 面
500 hPa 面
300 hPa 面

    偏西風は,水平スケールに対し,極めて薄い層のものである。
    上の地図は,タテ・ヨコのスケールが 約 5260 x 5770 km。
    これに対し対流圏の厚さは,約11km。
    その比は,タテが約 478 : 1 で,ヨコが約 525 : 1。
    標準コピー紙に喩えると,これの厚さが 0.1 mm なので,上の図は
      《48cm x 50cm の紙を横スライスして,その各面を見る》
    というふうのものである。


    気象学者は偏西風を「チューブ」に喩える。
    それは,偏西風をつぎのような図に表現することで,自分の方から騙されてしまうのである:
Hartmann (2016), §6.3.2
average wind speed for (a) DJF and (b) JJA.
Contour interval is 5 ms−1;
westerlies are red, easterlies are blue.

    騙されないように,スケールを確認しよう。
    上の図の左右のスケールは,2万km である。
    図の上下のスケールは,30 km。
    比は,667 : 1。
    《ヨコ 67 cm の紙の断面を見る》が,上図のスケールである。

    まだ,騙しががある。
    対流圏より上は,空気が少ない:
『理科年表』,「気温・気圧・密度の高度分布」から引用
高度
(km)
密度
(kg/m3)
0 1.2250
1 1.1117
2 1.0066
3 0.9093
4 0.8194
5 0.7364
6 0.6601
7 0.5900
8 0.5258
9 0.4671
 
高度
(km)
密度
(kg/m3)
10 0.4135
11 0.3648
12 0.3119
13 0.2666
14 0.2279
15 0.1948
16 0.1665
17 0.1423
18 0.1217
19 0.1040
 
高度
(km)
密度
(kg/m3)
20 0.0889
21 0.0757
22 0.0645
23 0.0550
24 0.0469
25 0.0401
26 0.0343
27 0.0293
28 0.0251
29 0.0215
 
高度
(km)
密度
(kg/m3)
30 0.0184
35 0.0085
40 0.0040
45 0.0020
    そこでの空気の移動は,「風」のイメージからかけ離れてくる。
    一方,空気粒子が1個でもあれば,そのスピードを以て「風の速度」と言い得る。
    上の図は,これに近いことをやっているのである。

    "average wind speed" として意味をもつのは,対流圏内──即ち高度約11km まで──である。
    そして上の図をこの高さで切り抜くとき,それは《ヨコ 1m 82cm の紙の断面を見る》のスケールになる。

    気象学者は,抽象を誇張と取り違える。
    抽象は本質の取り出しであるが,誇張は本質のねじ曲げである。
    このこと,よくよく吟味すべし。


  • 引用文献
    • Hartmann, D.L. (2016) : Global Physical Climatology (Sec. Ed.)
        Elsevier, 2016.