Up 長期気象予報とは何か 作成: 2023-11-25
更新: 2023-11-25


    気象庁は,長期気象予報として,向こう3か月予報を毎月発表している。
    先日は,「暖冬」を予報したところである。

    本来,気象の長期予報はできるものではない。
    では気象庁は,どうしてこれをやれるのか?

    「長期予報」の計算手順を定義しているからである。
    この計算をする。
    そして計算結果を, 「長期予報」として発表しているわけである。


    この計算は,つぎの2段階になっている:
    1. 「数値計算」
    2. 「アンサンブル予報」

    「数値計算」は,日々の天気予報でやっているものである。
    これは,気象変化の微分方程式を時間区間の区分求積で計算する。
    計算するのは,スーパーコンピュータ。
    この区分求積は,時間区間を好きなだけ長くできる。
    「3か月予報」では,3か月を区間にして計算する。

    微分方程式の区分求積は,初期値セットの択り方が問題になる。
    初期値の小さな違いが,だんだんと大きな違いになるからである。
    そこで,つぎの「アンサンブル予報」となる。

    これは,わざと,少しだけ違う初期値セットを複数用意する。
    そして各初期値セットで区分求積する。
    その計算結果は,つぎのような具合になる (黒線以外の複数の線が,複数の初期値セットに対応):
気象庁「予測に伴う誤差とアンサンブル予報」から引用:
    この複数の計算結果に対し,これの「真ん中」を統計的手法を使って択る。
    上の図で複数の線の真ん中を通っている黒線が,これである。
    そしてこれを, 「予報」として発表する。


    「3か月予報」だと,3か月を区間として区分求積の計算をするわけであるから,複数の線の開きはひじょうに大きくなる。
    そしてこれは,「真ん中」の意味が無くなっていくということである。

    こういうわけで,長期気象予報は,当てにするものではない。
    「長期予報をやってくれ」の求めがあるので「こんなものでよければ」で応えている──といったものである。

    実際,「長期気象予報は当てにするものではない」には,もっと根本的な理由がある。
    「数値計算」は,気象が連続的に変化することを仮定していることになる。
    しかし気象は,非連続な変動がふつうである。
    非連続な変動とは?
    連続的変化は,一面,ストレスを蓄積するプロセスである。
    そのストレスは,やがて破裂する。
    これが,この場合の「非連続な変動」である。