Up 大気圧は空気の重さ」? 作成: 2022-07-27
更新: 2022-08-06


      田中 (2017), p.13
    気圧とは単位面積あたり (メートル単位でいえば1m2) の空気の鉛直コラムの重さのことである。

    ひとには,この説明がすんなり入るらしい。
    ということは,ひとは重さを<直下の面にはたらく遠隔力>だと思っているわけである。
    しかし重さがこんなものであるなら,ビルの中には恐くて入って行けない。


    空気圧は, 「空気分子の壁との衝突」で説明される。
    よって大気圧も, 「空気分子の壁との衝突」で説明することになる。
    即ち,「地表の単位面積に空気分子が衝突するその大きさ」として。


    そこで本当なら,つぎの疑問が持たれるはずなのである:
      この2つは同じものなのか?
       a. 地表の単位面積に空気分子が衝突するその大きさ
       b. 地表の単位面積に鉛直な空気コラムの重さ

    a と b の関係は自明ではない。
    自明でないと思う者は,自分で確かめねばならなくなる。


    空気分子の質量を \( m \),分子量を \( a \) とする。
    単位面積の地表の面 \( S \) と,\( S \) に鉛直な高さ \( x \) の空気コラム \( C_x \) を考える。
    \( C_x \) の空気分子密度を \( \rho( x ) \) とする。

    \( C_x \) に理想気体の状態方程式を適用する。
    \( C_x \) の体積は,\( C_x \) の底面 \( S \) の面積が単位面積なので,\( x \) 単位体積。
    よって \( C_x \) の重さが,\( \rho(x) \ x \) 単位重さ。
    よって \( C_x \) のモル数が,
      \[ \frac{ \rho(x)\ x }{a} \]
    以上より,つぎが \( C_x \) に対する理想気体の状態方程式になる:
      \[ p(x) \ x = \frac{ \rho(x)\ x }{a}\ \ R\ T(x) \]   \( R \) :モル気体定数
    即ち,
      \[ p(x) = \frac{R}{a}\ \rho(x)\ T(x) \]


    \( \rho(x) \) は,グラフがつぎのような形の関数になる:
      「空気の分子量は 28.8」「1モルの気体の体積は, 常温常圧で約 22.4リットル = 0.0224 m3」より,
        \[ \rho( 0 ) = ( 28.8 / 1000 ) / 0.0224 \approx 1.3 kg /m^3 \]

    そして \( T(x) \) は,つぎの類の図が示す気温 (絶対温度) である:
田中 (2017), p.11 から引用

    さて,比べたいのはつぎの2つであった:
       a. 地表の単位面積に空気分子が衝突するその大きさ
       b. 地表の単位面積に鉛直な空気コラムの重さ

    a の計算式は:
      \( x \) の変化に対する \( p(x) \) の変化率を \( p'(x) \) とするとき, \[ \int_0^{x} p'(x)\,dx = p(x) - p(0) = \frac{R}{a}\ \rho(x)\ T(x) - p(0) \\ \ \\ p'(x) = \frac{d}{dx} \bigl( \frac{R}{a}\ \rho(x)\ T(x) \bigr) = \frac{R}{a}\ \frac{d}{dx} \bigl( \rho(x)\ T(x) \bigr) \] よって, \[ p(0) = \frac{R}{a}\ \rho(x)\ T(x) - \frac{R}{a} \int_0^{x} \frac{d}{dx} \bigl( \rho(x)\ T(x) \bigr) \ dx \]
    b の計算式は:
      \[ \int_0^{x} \rho (x)\,dx \]

    計算では,xに適当に十分な大きさの値を入れる。
    a は,十分な大きさのxに対して
      \[ \frac{R}{a}\ \rho(x)\ T(x) \approx 0 \]
    なので,
      \[ p(0) = - \frac{R}{a} \int_0^{x} \frac{d}{dx} \bigl( \rho(x)\ T(x) \bigr) \ dx \]


    2つの計算式
      \[ - \frac{R}{a} \int_0^{x} \frac{d}{dx} \bigl( \rho(x)\ T(x) \bigr) \ dx \\ \int_0^{x} \rho (x)\,dx \]
    は,同じ値を出すというものではない。
    ということは?
    気圧とは単位面積あたりの空気の鉛直コラムの重さのこと」は嘘だということである。


    実際,「気圧とは単位面積あたりの空気の鉛直コラムの重さのこと」には,空気を水と混同しているふしがある:
      田中 (2017), p.14
    同様の例として, たとえば水深 10m では気圧が 1 atm 上昇する.
    1m の面積で 10m の高さの水の重さは 76cm の水銀の重さと等しく, この重さが 1 atm という大気の圧力に等しい.
    つまり大気中では 10m の水深と同じ質量の空気が頭の上にあるということである.
    水深 10m の水とは 10トン(t) の重さをもつので, 10t の空気が地表から無限の高さの鉛直コラムの総量であることがわかる.

    しかし気圧と水圧は,同じモデル (「鉛直コラムの重さ」) にはできないのである。


  • 引用文献
    • 田中 博 (2017) :『地球大気の科学』, 共立出版, 2017.