Up 温度風 作成: 2022-12-10
更新: 2023-01-31


    気象学が偏西風を独自存在として立てるその方法は,「地衡風」であった。
    「地衡風」は,「気圧傾度力」が要素概念になる。
    気象学は,偏西風に適用する「気圧傾度力」を「等圧面の傾き」に求めた。

    「等圧面の傾き」は,実際は微々たるものである。 ( 高層等圧面の傾き)
    しかし気象学は,これを当てにするしかない。


    「等圧面の傾き」の説明は,「空気の温度差による気圧差」である:


    この説明では,状態方程式を,<圧力のことばによる表現を温度のことばによる表現に言い換える式>として使う。

    ところでこれは,「圧力の傾き」を「温度の傾き」に表現し直していることに他ならない:

    圧力の傾きが温度の傾きに表現されるので,気象学はさらに「温度」のことばによる「偏西風=地衡風」の表現に向かう。
    このとき用いるのが,「温度風」。
    やることは単純で,温度風が地衡風と一致するように,「地上は無風」を条件づけるだけである:

      田中 (2007), p.49.
    地衡風関係式は、気象要素のうちの風速と気圧場の関係を与える。
    一方、静力学平衡の式は気圧場と密度場の関係を与える。
    これに密度場と気温場の関係を与える状態方程式を組み合わせることで、地衡風を気圧場の代わりに温度場で表現するように変形することができる。
    この温度場と風の場の関係を表す式を温度風関係式という。
    温度風とは、温度場が与えられた時に、温度風関係式にしたがって吹く理論上の風のことである。
    実際には風の鉛直シアー (風ベクトルの空間的差のこと) を導く式であるが、ここではその鉛直積分を考え、地面に接する部分は無風であると仮定する。(少なくとも陸域では正しい。)
    こうすると温度風は上空の地衡風と一致し、考えている高度までの鉛直平均温度の等値線と平行に北半球では低温部を左に見るように吹く。

    こうして,つぎの並列な表現を得る:
      気圧差があるとき,進行方向の左を低圧側,右を高圧側とする風 が吹く (地衡風)
      温度差があるとき,進行方向の左を低温側,右を高温側とする風が吹く (温度風=地衡風)


    これは間違いである。
    間違いのタイプは,<存在論を間違う>。

    空気は空気から出られない。
    空気と気圧は分けられない。
    空気と温度は分けられない。


    気象学の<存在論を間違う>は,気象学の体質といったものである。
    偏西風を独自存在として立ててしまうのも,この体質である。

    この体質は,<閉じた空気>論に馴らされるとなってしまうものである。
    <閉じた空気>は,外から操作できる。
    足したり引いたりができる。
    大気はこうではない。
    大気は,self-reflection のダイナミクスで self-organising する系である。
    ここには<主体 subject>が存在しない。
    <主体>が存在しないから,作用・反作用というものも存在しないのである。


  • 引用文献
    • 田中博 :『偏西風の気象学』(気象尾ブックス016)), 成山堂, 2007.