足あとは,足のあとである。
足が無ければ,足あとは無い。
これは,誰でもわかる。
しかし,つぎのように進むと,あやしくなる:
面とか縁(へり) とかは,物の面・縁である。
物が無ければ,面・縁は無い。
実際,学者はたいてい,面や縁の実体論をやり出す。
面や縁の実体論をやり出すのが学者の資質だと言ってもいいくらいである。
現前の偏西風論──即ち,偏西風を説く気象学──も,この例に漏れない。
偏西風は,足あとである。
しかし気象学は,足あとを実体と思い,足あとの自己充足的 (自己循環的) な力学──「偏西風の力学」──を企図ずる。
そして,珍妙な「力学」を捻り出す。
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田中 (2007), pp.53-54
‥‥赤道付近で地表は大気に角運動量を与え、貿易風を減速させるように東向きに大気を加速し続けている。
他に何も力が加わらなければ、貿易風は衰退しやがて止まるはずである。
一方で、中高緯度で地表は大気から角運動量を奪い、偏西風を減速させるように西向きに大気を加速し続けている。
こちらも、他に何も力が加わらなければ、偏西風は衰退しやがて止まる。
しかし、実際には偏西風も貿易風も止まることはないので、低緯度の大気と中高緯度の大気の間で角運動量のやり取りをしていなければならないということになる。
つまり、大気中で西風運動量を低緯度から中高緯度に絶えず輸送していなければならない。
これはいったい、どのようにしてなされるのであろうか。
この役割を果たしているのが中緯度の高気圧や低気圧に伴う対流圏上層の波動である。
‥‥
上層の風はほぼ地衡風になっているので、風は高度場の等値線に沿って吹き、その間隔が狭いほど風速が大きいと仮定できる。
すると、西風の強いところでは南風が吹き、逆に西風が弱いところは北風になっている。
したがって、正味として西風運動量輸送は北向きである。
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同上, pp.72,73
図2・22 は初期値から8日以降13日までの数値実験の結果で、紙面を節約するため上と同様に2波長分だけ描いている。
偏西風ジェットに乗って先に述べたような構造をした波 [傾圧不安定波] が微小振幅から徐々に指数関数的に増幅し、ジェット気流を南北に大きく蛇行させるようになる。
やがて最盛期を過ぎると衰退し、13日にはジェット気流を北上させている。
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偏西風は,<足あと>である。
<足>は,60度より高緯度側の対流渦束である。
偏西風は,端的に,この対流渦束の縁(へり) である。
「偏西風が止まらない」とは,この渦束が止まないということである。
「偏西風が蛇行する」とは,この渦束が揺らぐということである。
引用文献
- 田中博 :『偏西風の気象学』(気象尾ブックス016)), 成山堂, 2007.
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