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松田伝十郎 (1799), pp.84-94.
一、イナヲは本邦に云幣帛の類なるにや、蝦夷地にては天地の事よりはじめ神道を尊び恐るゝ。
此國第一の戒なり。
然るゆへに何事を為(す)に附てもまづ神明を尊び祭ることをつとめとして、これをカモイノミと稱す。
カモイは神を云,ノミは祈ることを云,神をいのるということなり。
其カモイノミを行ふにはかならず此イナヲを用ゆる事ゆへ、神明を祭るに大切なる物とす。
先其身を慎みいさぎよくすることをなして、夫より圖のごとく製するなり。
其せゐする處の形は神を祭る法にしたがひことごとくたがひあり。
又一名をヌシヤとも稱す。
イナヲこしらゆるをイナヲカルと云。
一、ァペシヤマウシイナヲと稱する事は、火の神を祭るときに捧げ用ゆるなり。
アペは火の事をいひ、シヤマはものゝそばをいひ、ウシは立つることをいひ、火のそばに建つるイナヲと云事なり。
又ピンネアペシヤマウシイナヲと云事あり、この二はかならず火の神を祭るに用ゆるイナヲにして、男女のわかちあるに寄て、其かたち變れるなり。
ピンは男子を云、ネは助語なり。
シヤマウシイナヲは前に云ると同じことにて、男子火のそばに建るイナヲと云事なり。
マチネアベシヤマウシイナヲといへるは、マチは婦女を云、ネはやはり助語なり。
一、キケチノイナヲといへるは、家内安穏を祈るに用ゆる。
キケとは物を削る事をいひ、チは助語なり。
(チ)ノイと云は物を捻る事を云。
削り捻るイナヲと云事なり。
一、ハルケイナヲとはハルケとは縄のことをいひて、縄のイナヲと云事なり。
また一にはトシイナヲとも云。
トシは船中に用ゆる綱のことを云。
綱のイナヲといふ事なり。
一、(シユトイナヲ)。シユトと云るは杖の名にしてウカルを行ふ時に用ゆる物なり。
ウカルと云は夷人の俗罪を犯したるものあればそれをむちうつ事のあるなり。
シユトとは其むちうつ杖の事を云。
一、(イコシラツケ)。イコシは守を云う。ラツケはものを掛おくことを云。
守りをかけおくイナヲと云事なり。
守りといへるは夷人の守護する處の寶器をいふなり。
一、(チカツフイナヲ)。チカツフとは鳥の事を云なり。
是は養ひおきし鳥を殺す時、此イナヲを用て其殺せし鳥の靈を祭るなり。
是によりて鳥のイナヲといふ心にてかく名附しものなり。
夷人熊、狐の類、其外諸鳥を飼置て是を殺すときは其靈を祭ること甚(だ)あつく、意味も亦ふかし。
一、(イアシイナヲ)。イアシは夷人の住居の内に捧げ置イナヲと云ことなり。
一、(ハシイナヲ)。ハシとは木の小枝の事を云。
此イナヲは漁獵をせんとする時先海岸にて海神を祭ることあり。
其とき此イナヲを小枝にゆひ立て奉る事なり。
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村上島之允 (1809), pp.550-555
アベシヤマウシ イナヲ
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ビン子アベシヤマウシ イナヲ
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マチ子アベシヤマウシ イナヲ
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キケチノイ イナヲ
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キケハアロセ イナヲ
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ハルケ イナヲ
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シュト イナヲ
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イコシラツケ イナヲ
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チカツフ イナヲ
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イアシ イナヲ
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ハシ イナヲ
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引用文献
- 松田伝十郎 (1799) :『北夷談』
- 高倉新一郎編『日本庶民生活史料集成 第4巻 探検・紀行・地誌 北辺篇』, 三一書房, 1969. pp.77-175
- 村上島之允 (1809) :『蝦夷生計図説』
- 高倉新一郎編『日本庶民生活史料集成 第4巻 探検・紀行・地誌 北辺篇』, 三一書房, 1969. pp.545-638.
- 函館市中央図書館デジタル資料館
参考文献
- 久保寺逸彦 (1971) :「沙流アイヌのイナウに就いて」, 『金田一京助博士米寿記念論集』, 三省堂, 1971.
収載 : 佐々木利和[編]『久保寺逸彦著作集1: アイヌ民族の宗教と儀礼』, 草風館, 2001, pp.333-362
参考ウェブサイト
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