Up 自営農に不適応──惰性の法則 作成: 2016-09-09
更新: 2016-09-09


    アイヌは,狩猟採集を生業とすることをやめ,被雇用を択ぶ。
    このとき,生業の選択肢に,自営農というのもあった。
    しかし,アイヌは,自営農という生業には不適応を現す者になる。

    不適応は,つぎの二つが要因になっている:
      a. 農業という生業の,本来的困難
      b. 体質・世界観の惰性


    農業の開始は,開墾から始まる。
    併せて,灌漑用水を整備することが要る。
    これは,治山治水にまで拡がっていく。
    作物栽培の段に入っても,無事収穫とはならない。
    自然災害があり,動植物被害がある。
    これらを乗り越えるには,よほどの知識能力と労働能力が要る。

    この方面の知識能力と労働能力は,アイヌの持たないものである。
    こうして,「旧土人保護法」は,意図は「保護」でも,「保護」にはならない。
    アイヌ自営農化施策は,開拓民施策と同様,当事者に辛酸を舐めさせることになる。 (農政は,常にノー政である。)


    また,アイヌは,「自然との共生」で生きてきた者である。
    「自然との共生」は,《自然に自分を合わせる》である。
    ところが,農業は,《自然に立ち向かう,自然を治める》である。
    《自然に立ち向かう,自然を治める》は,アイヌの体質・世界観と合わない。


    北海道に農業が入るのは,明治政府による「北海道開拓」からである。
    それより前に農業が入ることがなかったのは,農業が入る土壌がそもそもなかったからである。
    北海道史のテクストのうちには,「北海道は寒冷地」を農業が入らなかった理由として述べるものがあるが,それは間違いである。