Up 森竹竹市 作成: 2017-02-17
更新: 2017-02-18


森竹竹市

      森竹竹市 (1934), p.399
    ◇新聞の報道によると来る二十九日室蘭に入港する聯合艦隊歓迎に際し松尾市長は胆振支庁長の賛成を得て白老アイヌを招き、熊祭りとアイヌ舞踊を将兵に観覧させるとの事であるが、私は全道一萬五千有余のアイヌ民族の名においてこれが中止方を希望するのものである。
    ◇従来高位顕官の本道を視察に際し、これが接伴の任にあたる当局者は蝦夷情調を深めてその旅情を慰むるためか、殊更アイヌの古老連に旧式な服装をして駅頭に送迎せしめ、あるひは熊祭や手踊などを開いて観覧に供し、同行の新聞記者や写真班員はまたこれが恰も北海道のアイヌの民族現在の日常生活なるが如く報道し、ために世人の認識をあやまらしめ、延いてはこれに対する侮べつ嘲笑の念を誘発せしめてゐたのはわれわれの憤まん禁じ得なかったところである。
    ◇われわれは今日の非常時を認識することにおいて人後に落つるものではなく、従って直接護国の任にあたる皇国将兵の労苦を思ひこれを慰めんとする誠意においてまた何人にも譲るものではないが しかしそれには後進民族を見世物扱ひするが如き非人道的方法によらずとも他に幾多の方法はあるべく、私は同族の一人として黙視するに忍びず、敢てこの言をなすものである。


    引用文献
    • 森竹竹市 (1934) :「見世物扱ひを中止せよ」,『小樽新聞」1934-08-24
        小川正人・山田伸一(編)『アイヌ民族 近代の記録』, 草風館, 1998, p.399