Up 「自然に克つ」行政 作成: 2023-11-03
更新: 2023-11-03


    ひとは,堤防の大きさ・高さを見て安心する。
    これが壊れることを想像できない。

    堤防は,水がこれの上を越して内側へ流れ出すと,壊れる。
    堤防の本体は盛土だからである。
    コンクリートは,盛り土に貼り付けただけのものである。
    堤防の内側は土が露出している。
    水はコンクリートを引き剥がし,地盤の土を洗掘する。

    堤防が土堤であるのは,費用対効果比からこれに決まり,ということである。
    一方,コンクリートや鉄鋼なら強いというわけでもない。
    水には何物も勝てない。
    水とは,うまく付き合うのみである。
    そして堤防の場合は,築きやすくしたがって復旧もしやすい土堤に決まり,となるのである。


    いまの東京都にとって,津波防御は己の存亡が懸かる問題である,
    そこで,堤防の強化を課題に掲げる。
    しかし,<したい>と<できる>は違う。
    津波に負けまいとするその堤防強化工事は,莫大なコストを要する。
    莫大なコストをやり繰りしながらの工事になるので,長い時間を要する。
    そしてその間に津波が起こり,それまでの工事を元の木阿弥にしてしまう。
    自然は,人の都合に構ってはくれない。

    東京/日本は,経済の急成長の中で勘違いをするようになった。
    「自然と折り合いをつける」を退け,「自然に克つ」に邁進した。
    ひとはいま蟲 (異形・異物) を駆除の対象にするようになっているが,それと軌を一にしているのが「自然に克つ」なのである。

    「自然に克つ」を身につけてしまうと,「自然と折り合いをつける」には戻れない。
    「自然に克つ」の武装で硬直化し,「自然と折り合いをつける」の柔軟さを無くすのである。
    そして「自然に負かされて終わる」が,これの末路になる。
    津波と都心の関係は,この場合である。