Up 場所記憶 作成: 2019-10-28
更新: 2019-10-28


    カラスによく見る行動のうちに,貯食がある。
    これは,餌の量や内容により,数カ所に分けられることもある。

    複数の場所に餌を隠すわけだが,このとき場所をきちんと憶えているようには全然見えない。
    しかもその場所は,人間の感覚で<憶えようがない場所>であることが,ふつうである。
    隠したはいいが,きっと迷うか忘れるかしてしまうのだろう」と思ってしまう。
    しかし,後からしっかり各場所にやってくて,餌を回収する。

    これは,われわれには度し難いことである。
    われわれにとって度し難いのは,われわれは場所の同定に,目印・角度・距離の類を用いる者だからである。 (翻って,われわれがいまの文化とは別の文化に生きていれば,なんでもないことなのかも知れない。)


    エゾリスは,冬に雪を掻き分けてドングリを採る。
    そのドングリは,秋に貯食したものだという。
    「そんなばかな!ドングリがどこかにないかなと捜しているんだろう」と思いたくなるが,カラスの貯食場所回帰を見ていると,「秋に貯食したものだというのは,本当かも」と思うことになる。

    鳥の渡りや,魚の母川回帰は,これの説明を「本能」のような言い方でやり過ごしているが,これらはしっかり場所記憶に基づく行動であり,「本能」の言い方ができるのは場所記憶の<形式>までで,個体によって異なるその<内容>は「学習」の違いということになる。
    どうしてこのようなことが成るのか,場所の同定を<目印・角度・距離>の枠組でしか考えられないわれわれには,さっぱりわからない。