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読売新聞, 2020-06-03
今・来年度見送り
教員・教室の確保 ■ 待機児童 急増
■一斉休校
「いかに格差を生じさせないように学びを保障していくか、ということを第一に対応したい」
首相は2日、自民党ワーキングチーム (WT) から早期導入見送りを求める提言を受け取ると、神妙な面持ちでこう返した。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、首相は2月27日に全国の小中学校や高校などを対象に3月2日からの一斉休校を要請した。
これを受け、政府は学習遅れを解消するための「カードの一つ」として、9月入学の検討に着手した。
緊急事態宣言の延長が不可避となる中、4月28日、東京都の小池百合子知事や大阪府の吉村洋文知事が「9月入学導入論」を発信。
宮城、広島など17県の知事有志も同じ日に9月入学導入を求める共同メッセージを採訳Lた。
こうした動きを受け、首相は翌29日に「前広に様々な選捉肢を検討していきたい」と応じたことで、機運は一気に高まった。
■一転逆風
下村博文元文部科学相や稲田朋美幹事長代行ら自民党内の9月入学推進派も加勢して、政府の検討が加速することになった。
当初は政府高官も「世論の反応を見ると、若い人たちほど好意的だ。この際やってもいい」と語っていたが、検討が進む中、多くの課題が判明すると、風向きが変わり始めた。
文部科学省は5月19日、小学1年生について、①来年度に17か月分の児童を一斉入学させる②毎年13か月分の児童が時期をずらしながら入学し、5年かけて移行させる──案を提示した。
ただ、いずれの案も30本を超える法改正が必要で、文科省の試算では教員や教窒の確保など、少なくとも5兆円の財政コストがかかることがわかった。
制度移行期に諸外国の中で義務教育の開始年齢が最も遅くなることや、大量の待機児童が発生することも危慎された。
制度改正に伴う学校現場の負担も大きく、教育関係団体は相次いで慎重な議論を求める意見書を出した。
全国市長会が5月25日の自民党WTで「8割が慎重または反対」とする調査結果を発表すると、与党内の議論は慎重論が主流となった。
■政権の体力
安倍政権に対する世論の不信感も、9月入学の行方に影響を与えた。
1人当たり10万円の一律給付を巡る迷走やPCR検査の遅れなど、新型コロナ対応で国民の不評を買う中、検察庁法改正案を巡る混乱が追い打ちをかけた。
課題の多い政策を短期間で実現するには強い政権基盤が不可欠だ。
これまで官邸主導で様々な政策を進めてきたが、政府関係者は「9月入学を強行突破するだけの政権体力はない」と打ち明ける。
休校の長期化を踏まえて浮上した9月入学だったが、緊急事態宣言は5月14日以降、徐々に解除され、6月学校再開の見通しがついたことも、機運がしぼむ一因となった。
政府は、新型コロナウイルスの感染が再拡大する「第2波」が来る可能性も視野に、将来的な導入については検討の余地を残している。
だが、文科省幹部は「このタイミングで実現できないのであれば、今後はさらに難しくなるだろう」との見方を示す。
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