Up 円安スパイラル 作成: 2024-05-03
更新: 2024-05-03


読売新聞, 2024-05-03
  




    ひとは, 「円安」を投機の話だと思っている。
    「円安」の意味を知らされていないからである。
    ひとに「円安」の意味を知らせないのは,知ると怖い話になるからである。

    怖い話というのは,円安スパイラルである。

    企業は,金をどの通貨で持っておくかが問題になる。
    安くなる通貨をもっていたら損をするからである。
    金をたくさん抱えている個人も,これと同じ。
    彼らは,金を円で持っていたら損をするので,円をドルに替えようとする。
    そこで,円はさらに安くなる。
    円がさらに安くなると,円の売り急ぎになる。
    こうして,円安と円売りがループする。
    これが,円安スパイラルである。


    円安になると,国内の物価が高くなる。
    輸入品が高くなるので,生産の中で輸入品を使っている商品 (ほぼすべての商品) は価格を上げねばならない。
    また,外国人客を当てにできる商いであれば,高い価格がつけられる。

    例えば,北海道のニセコは,富裕外国客がつくようになったことで物価が上がり,日本人の一般ツアーには不向きなところになった。
    東京も,ホテルから始まって,このようになっていく。

    物価が高くなるとは,物に対する円の価値が下がるということである。
    そしてこれを延長すれば,昔の言い回しで「紙幣がただの紙くずになる」。
    (みなデジタルのいまの時代には,これは何と言えば?),


    外国人客による物買い (日本買い) の拡大と,一般日本人にとっての物価高が,円安スパイラルの二面として同時に進行する。
    ひとはこれにどう対応・自衛することになるか?

    一つは,円をやめてドルを使う。 ──店がドルショップになる,等。
    あるいは,生産物を循環できる地方は,地方貨幣 (ポイント) をつくって,地産地消経済をつくる。

    東京は?
    これは,外国客でやっていく。
    しかしこの生き方のパイは小さいので,東京はスラム化していくことになる。

    そして東京の場合,「首都直下地震」がある。
    これは近い将来起こることになっている。
    そのとき生じる津波が少し強ければ, 高さ2,3mクラスでもそれは海岸堤をのぼり中央の地下インフラを泥水で埋める。
    これの復旧はひどく長い行程になり,それを都民が待つというふうにはならない。
    東京は巨大地下インフラを構えてしまったので,来る首都直下地震は,この前の関東大震災とはまったく様相の違うものになる。
    福島第一原発の失敗は地下に電源設備を構えてしまったことだが,東京は中央の地下に巨大インフラを構えてしまったことが失敗になるのである。


    円安は,いまのところ止まる契機が見えない。
    不況が怖いから金利は上げられず,そして放漫財政によって金余り状態。

    しかしなんにしても,「なるようになる・なるようにしかならない」である。
    日本人も,日本,日本と言わなくなるかも知らない。

    先ず,企業に国籍は無い。
    日本の企業はグローバル企業を目指してきたわけであるが,グローバル企業に国籍は無い。
    トヨタだと,単独従業員数7万超,連結従業員数36万超,そして連結従業員数の半数は海外に在籍という数字がある。
    役員にも外国人がいるわけだから,「日本買い企業」と見ることもできるわけである。
    日本製鉄のUSスチール買収が,バイデンやトランプが反対を表明していることで,話題になっている。
    「アメリカ買い」だとして反対しているわけだが,合併企業になれば,日本製鉄をこの企業の「日本買い」と見なせる。

    そして,いま日本は着実に移民の国に向かっている。


    そこで要点は,円安が進む速度である。
    円安がどんどん進むと思ってひとがドル買いに走るようになると,円安スパイラルになる。
    為替レートは,経済の実態をそのまま反映しているのではない。
    ひとの心理が半分である。
    ひとが円安が何かを知らされないのは,不安にさせてしまうとドル買いに走る者が出て来て,円安スパイラルへと進んでしまうからである。