Up | 「月資源開発」の絶対矛盾構造──鶏と卵 | 作成: 2024-02-20 更新: 2024-02-20 |
世の中の出来事を,すべて「戦争」「競争」「挑戦」に脚色する。 「負けると大変だぞ」「遅れをとると大変だぞ」と煽る。 ひとは「いったい何が起こっているんだ?」となり,メディアに殺到する。 これが,メディアの商法である。 メディアは,大昔からずっと同じである。 こんなメディアが近頃キャンペーンしているのが,「世界は月の資源開発で熾烈な競争に入っている」。 きっかけは,中国の「嫦娥」プロジェクト。 「尖閣」「南シナ海」に「月」を連ねれば,読者は前のめりに乗ってくる──の計算である。 「月の資源開発」を唱える安い「専門家」を検索し,ことばを誘導し,目論見の記事をつくる。 その安い「専門家」の思考回路はどうなっているかというと,「時間」「進化」「歴史」の概念が無いのである。 「時間」「進化」「歴史」の概念を持てるというのは,経験値である。 これが見えるような生活をやっていないと,持たないままになる。 その「専門家」は,この手合いである。 「月の資源開発」は,何も無い地に鉱業を興すことである。 これは,必要なものを地球から運ぶという方法では,できない。 「なんで?」 「必要なものを地球から運べば,できるだろう。」 「その輸送がとんでもないコストになるから,難しいだけだ。」 そうではないのである。 「何も無い地に何かを興す」は,「鶏が先か卵が先か」「缶の中に缶切り」の絶対矛盾構造になるのである。 必要なものは,現地組立になる。 ──ロケットの輸送コンテナの大きさでは,まるまんまを収納できない。 現地組立では,組み立て工場が要る。 工場は,現地組立。 「組み立て」と「工場」の堂々巡り! 人類が今日の技術に至るまでには,ひじょうに長い時間がかかった。 ひじょうに長い時間がかかったのは,昔の人間の頭が悪かったからではない。 技術の発達がもともと長い時間を要するものであるから,長い時間がかかったのである。 自動車エンジニアが,過去の時代にタイムスリップする。 そのエンジニアがそこで自動車をつくれるかというと,つくれない。 「鶏が先か卵が先か」「缶の中に缶切り」の絶対矛盾構造になるからである。 技術の発達は,動力と機械の相互発達である。 動力エネルギー源として石炭が石油の前になるのは,石炭は人力で採れるが,石油はポンプが要るからである。 動力エネルギー源として木が石炭の前になるのは,枝は手で折ったり地上に落ちているのを拾えるが,採炭の方は色々道具が要るようになるからである。 機関車が飛行機より前になるのは,機関車は石炭を燃料にできるが,飛行機は石油を俟たねばならないからである。 大八車が機関車より前になるのは,大八車は木でつくれるが,機関車は技術が鉄を扱えるようになるまで俟たねばならないからである。 金属製品を最初に現す機械は,木製機械である。 木製品を最初に現す機械は,人力ないし他の動物の力である。 これらの順序は,変えられない。 「月の資源開発」を行うとは,「鶏が先か卵が先か」「缶の中に缶切り」の絶対矛盾構造にならないようにこれを行うということである。 人力で最初に組み立てた小さい機械・工場を出発に,機械と工場を行ったり来たりの方法で両方を少しずつ大きくしていくのである。 このプロセスが「月の資源開発」に至るまでには,長い長ーい時間がかかる。 一方,作業員は早々に死んでしまう。 避けられない戸外作業で,宇宙線に大量被曝するからである。 人体は常在微生物との共生体であるが,その常在微生物が環境変化で死んだり変質するために,体の免疫機能が変調を来たし自爆的に暴走するようになるからある。 「月面都市」で食物自給の絵図を描く者もいるが,オメデタイ限りである。 野菜が,水と肥料と土もどきで育つと思っている。 野菜の生育が土壌微生物との共生であることに,無知なのである。 「月面都市」は,「ノアの方舟」プロジェクトということになるのである。 その「ノアの方舟」に乗せられる生物の構成は,地球の生態系の構成に従う。 それは,ウイルス,細菌,菌類が大部分を占めるということである。 |