「「エコ」デマゴギー : 人道・社会主義的解釈」では,Wohlleben, Peter (2015) を素材にした。
その Wohlleben, Peter (2015) を,ここでは「「エコ」デマゴギー : 反科学」の素材として取り上げることにする。
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Wohlleben (2015), pp.10-15.
木も自分を表現する手段をもっている。
それが芳香物質、つまり香りだ。
‥‥‥
最初に葉を食べられたアカシアは、災害が近づいていることをまわりの仲間に知らせるために警報ガス(エチレン)を発散する。
警告された木は、いざというときのために有毒物質を準備しはじめる。
‥‥‥
だが、そのような防衛措置がうまく働くまでには、ある程度の時聞がかかる。
だからこそ、早期警報の仕組みが欠かせない。
空気を使った伝達だけが近くの仲間に危機を知らせる手段ではない。
木々はそれと同時に、地中でつながる仲間たちに根から根へとメッセージを送っている。
地中なら天気の影響を受けることもない。
驚いたことに、このメッセージの伝達には化学物質だけでなく、電気信号も使われているようだ。
‥‥‥
‥‥‥森のなかにも、仲間の輪に加わろうとしない一匹狼や自分勝手なものがいる。
では、こうした頑固者が警報を受け取らないせいで、情報が遮断されるのだろうか?
ありがたいことに、必ずしもそうはならないようだ。
なぜなら、すばやい情報の伝達を確実にするために、ほとんどの場合、菌類があいだに入っているからだ。
菌類は、インターネットの光ファイバーのような役割を担い、細い菌糸が地中を走り、想像できないほど密な網を張りめぐらせる。
‥‥‥
森林というコミュニティでは、高い樹木だけでなく、低木や草なども含めたすべての植物が同じような方法で会話をしている可能性がある。
しかし、農耕地などでは、植物はとても無口になる。
人間が栽培する植物は、品種改良などによって空気や地中を通じて会話する能力の大部分を失ってしまったからだ。
口もきけないし、耳も聞こえない。
したがって害虫にとても弱い。
現代の農業では農薬をたくさん使うようになった。
栽培業者は森林を手本として、穀物やジャガイモをおしゃべりにする方法を考えたほうがいいのではないだろうか。
‥‥‥
西オーストラリア大学のモニカ・ガリアーノは、ブリストル大学およびフィレンツェ大学と協力して、地中の音を聞くという研究を行なった。‥‥‥
根が発する静かな音が測定装置に記録されたのである。
周波数220ヘルツのポキッという音が。‥‥‥
研究室で記録された音は無意味な騒音ではなかった。
音を立てた根をもつ苗とは別の苗が音に反応したからだ。
220ヘルツの "ポキッ" という音がするたびに、苗の先がその方向に傾いた。
つまり、この周波数の音を "聞き取っていた" のである。
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ひとは,科学を疎ましいものにして,イデオロギーや宗教の方を択る。
ひとは自分が物を言える所を択ぶものだからである。
イデオロギーや宗教は,物を知らなくても物を言うことができる。
声を大きく出せば,サークルの中心に立てる。
ひとが惹かれるイデオロギー・宗教は,いつも同じである。
それは,幼稚に科学に粉飾されたイデオロギー・宗教である。
「知識人」は,これに簡単に騙される手合いである。──そして広告塔を務める。
ひとは,人間の方から草木を理解しようとする。
これは逆であって,この場合は草木の方から人間を理解しようとすべきなのである。
生物は,物理・化学的系である。
「主体」の概念はひとの錯覚であって,そのようなものは自然の産物には存在しない。
複雑な系は,幼稚な眼には「主体」のように見えてくるのである。
木が何かに反応するとき,その反応は「主体的」な反応ではない。
系の要素が物理・化学的に連鎖反応している様相である。
木がある事に反応して芳香物質を発するのは,「主体的」な反応ではない。
その木が発した芳香物質に周りの木が反応したとして,それは「主体的」な反応ではない。
木を何かに喩えるときは,例えば町を考えるとよい。
木が芳香物質を発するのは,町に火の手が上がるようなものである。
それを見た隣接する町の住民は,延焼を警戒して構える。
しかしこれは,火事を起こした町がこの火事を警報として他の町とコミュニケーションしたということではない。
事物に「主体」を措く考え方を,アニミズムと謂う。
これは,自分が対峙している自然を理解したいとする人間にとって,最も容易い方法である。
そして,時代を超えて普遍的な方法である。
科学は,イデオロギー・宗教に決して勝てない。
引用文献
Wohlleben, Peter (2015) :
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Das geheime Leben der Bäume : Was sie fühlen, wie sie kommunizieren ─ die Entdeckung einer verborgenen Welt.
Lutvig Verlag, 2015.
長谷川圭[訳]『樹木たちの知られざる生活──森林管理官が聴いた森の声』, 早川書房, 2017.
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