Up 木を擬人化する者は,何をわかっていないか 作成: 2023-06-14
更新: 2023-06-14


    ひとは,木を擬人化する。
    よって,木を擬人化する物語には,我が意を得たりとばかりに,飛びつく。

    そこで,木の擬人化で業績をつくろうとする研究者が現れる。
    ひとにアピールすること受け合いだからである。
    実際,メディアがすぐさま取り上げてくれる。


    木の擬人化は,間違いである。
    木を擬人化する者は,何がわかっていないので,この間違いをするのか。
    それは,植物と動物の違いである。

    動物は,他の生物と何が違うのか。
    即ち,何を以て他の生物とは違うとするのか。
    それは,指揮命令系統の存在である。

    指揮命令系統は,つぎの事で成る:
    1. 中央と末端
    2. 中央と末端をつなぐ通信回線
    3. 末端は,通信回線を使って,中央に情報を上げる
    4. 中央は,末端から上がってきた情報をもとに,末端に下す命令を決定する
    5. 中央は,通信回線を使って,末端に命令を下す
    実際,脳,細胞,神経が,それぞれ「中央」「末端」「通信回線」である。


    動物は,細胞集団が中央を形成する場合である。
    これに対し,木 (植物) は,細胞集団が中央を形成しない場合である。

    木の細胞は,それぞれが周囲に反応して自己再組織化を為す。
    これが,全体として「木」を現す。

    木は,アダム・スミスが「神の見えざる手」と称した経済と同じである。
    「個それぞれが周囲に反応して自己再組織化を為す」が実現する全体秩序の形態は,物理学の謂う「波動」である。
    木は,細胞間の連動がつくる波である。


    木は,細胞集団の波であるから,感じないし,考えないし,話さない。
    木の声を聞こうとして幹に耳をあてても,無駄である。
    何かの音が聞こえてくるかも知れぬが,それは木の声ではない。
    細胞集団の波動に伴って生ずる音である。

    つぎと同じ:
      川は,感じないし,考えないし,話さない。
      川の音は,川の声ではない。

    「川は感じる・考える,話す」と思うのを,アニミズムと謂う。
    現代人は,科学教育により,このアニミズムを脱していることになっている。
    しかしそうではないことを,ひとの木に対する認識──「木は感じる・考える,話す」──が示しているのである。