Up 藤沢利喜太郎 (1861-1933) 作成: 2017-08-17
更新: 2017-08-20


  1. 数え主義
    数え主義は,つぎの立場がおおもとである:
      《数は, 「数の構成」の中の数》
    大学の数学教員の「数」の授業は伝統的に「数の構成」であるが,藤沢の「数」の捉えはこれである。

     『算術条目及教授法』
    pp.193,194.
    分数の起原を説明するに当り直線,実物等を利用するは,分数の抽象的概念に達せしむる一時の方便に過ぎず,万一誤って方便を利用する過度なるときは,偶々(たまたま)分数の抽象的観念を害うの恐れなきにしもあらず。
    事珍らしく述ぶるまでもなきことながら,原来分数は,掛け算の逆なりと云う視点の下に於て,割り算の範囲を推し拡めんが為めに出で来りたるものにして,分数は何処までも推し拡められたる意味に於ける数なり

    《数は, 「数の構成」の中の数》は,数の使用を説明できない無理な立場である。
    「数の使用」の中の数は,「量の比」だからである。
    しかし,藤沢の立場は,《数は, 「数の構成」の中の数》である。
    当時,「数は量の比」は,「理論算術」の名称で拡まろうとしていた( 寺尾寿)。
    藤沢はこれを批判する者になる。

    備考:数え主義
    • タンク Tanck, クニルリング Knilling の数え主義
    • クロネッカーは,カントール (「集合→数」) を攻撃


  2. 分科主義
      藤沢がドイツ留学で師事したクロネッカーは,構成主義。
      構成主義は,自ずと分科主義になる。


  3. 形式陶冶
     『算術条目及教授法』
    pp.2,3.
    以上述ぶるが如く初等数学が教授の目的に二あり
     第一 階梯予備の数学知識を与うること
     第二 数学思想を養成すること 即ち精神的鍛錬
     ‥‥‥
    此の二つの目的の一方にして貫徹せらるるときは,他の一方は自然の結果として達せられるものなり。 故に数学科の教授法を考案するには,必ずしも此の二つの目的に対し,左顧右(さこう)(べん)するを要せず。 其の一方に着目すれば可なり。
    且つそれ中学教育を受る者の一大部分は将来に数学知識を要す。然れども兎に角に一部分なり。 数学思想は中学教育を受くる者全体に欠くべからざる。
    されば,一般に論ずるときは,初等数学科教授の目的は,精神的鍛錬にありとすることを得べし。


  4. 「算術」: 実質陶冶
     『算術条目及教授法』
    pp.3,4.
    普通教育中,初等数学化の教授法は専ら精神的鍛錬を目的とすべきこと,前節既に論ずるが如し。 然れどもこれは初等数学全体に就き概論するものにして,今特に算術に就きて論ずるときは,大いに事情の異なるものあり。
     ‥‥‥
    精神的鍛錬を外にして,算術教授の一大目的あり
    世俗に所謂読み十露盤の十露盤にして,即ち日用計算に習熟せしめ,併せて生業上有益なる知識を与うるにあり。


  5. 算術中に理論なるものあることなし」──「算術」と「代数」を分ける
     『算術条目及教授法』
    p.9.
    算術の理論は代数にして,算術の上に代数ありとするときは,算術中に理論なるものあることなし
    故に算術に於ては,類似法あり,法則あり,説明あり,解析あり,然れども証明あることなし。
    算術中の法則は帰納的の性質又公理的の性質を帯ぶるものなり。

    算術に理論なし」の立場は,二通りの解釈が立つ:
    1. 算術は,"読み書きそろばん" の "そろばん" であるべし
    2. 理論流儀算術を阻却すべし
    ここで「理論流儀算術」は,寺尾寿 の『中等教育算術教科書』 に表されているものである。

    藤沢が理論流儀算術を批判する者になる理由は,つぎのようになる:
    1. 数え主義の数は, 「数の構成」の数であり,数論の数。
      理論流儀算術の数は, 「数の使用」の数であり,代数の数 (「数は量の比」):
      • 「量表現の数」
          「量の測定」として,これは代数の数
          しかし「数は量の抽象」にすると,これは集合論の数になる。
      • 「量計算の数」──これは,代数の数
    2. 数学の伝統は,数論と代数を分けてきた。

    ただし藤沢は,理論流儀算術批判のロジックを「理論は難しくて無理!」にする。
    しかし,「難しくて無理!」は,自家撞着になるロジックである。
    実際,藤沢の流儀も,実行に移されるや,「難しくて無理!」を呈していく。
    そして「算術に理論なし」も,そもそも無理なスタンスである。


  6. 算術教科書の作成
    藤沢の算術教科書の特徴はつぎの通り:
    • 数が「数の構成」の数であって, 「数の使用」の数 (「数は量の比」) でない
    • 数学 (数) と実用 (数に単位がつく) の並列構成
    • 内容が網羅的──これは「学習負担が大」に通じる
    • 練習問題が多い (鍛錬重視) ──これも「学習負担が大」に通じる


  • 参考文献
    • 藤沢利喜太郎
      • 『算術条目及教授法』, 1895.
          国立国会図書館デジタルコレクション
           :http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/811540/8
      • 『算術教科書』大日本図書, 1896.
          国立国会図書館デジタルコレクション
           上巻:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/826836
           下巻:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1080994
      • 『算術小教科書』大日本図書, 1898.
          国立国会図書館デジタルコレクション
           上巻:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/826972
           下巻:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1082945
    • 『世界大百科事典 第2版』「藤沢利喜太郎」, 平凡社, 1993.
    • Knilling, Rudolf [著], 佐々木吉三郎 [解説] :『算術教授法真髄 : 数へ主義 (上・下)』, 同文館, 1806.

  • 参考ウェブサイト