- 数え主義
数え主義は,つぎの立場がおおもとである:
大学の数学教員の「数」の授業は伝統的に「数の構成」であるが,藤沢の「数」の捉えはこれである。
『算術条目及教授法』
pp.193,194.
分数の起原を説明するに当り直線,実物等を利用するは,分数の抽象的概念に達せしむる一時の方便に過ぎず,万一誤って方便を利用する過度なるときは,偶々分数の抽象的観念を害うの恐れなきにしもあらず。
事珍らしく述ぶるまでもなきことながら,原来分数は,掛け算の逆なりと云う視点の下に於て,割り算の範囲を推し拡めんが為めに出で来りたるものにして,分数は何処までも推し拡められたる意味に於ける数なり。
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《数は, 「数の構成」の中の数》は,数の使用を説明できない無理な立場である。
「数の使用」の中の数は,「量の比」だからである。
しかし,藤沢の立場は,《数は, 「数の構成」の中の数》である。
当時,「数は量の比」は,「理論算術」の名称で拡まろうとしていた( 寺尾寿)。
藤沢はこれを批判する者になる。
備考:数え主義
- タンク Tanck, クニルリング Knilling の数え主義
- クロネッカーは,カントール (「集合→数」) を攻撃
- 分科主義
藤沢がドイツ留学で師事したクロネッカーは,構成主義。
構成主義は,自ずと分科主義になる。
- 形式陶冶
『算術条目及教授法』
pp.2,3.
以上述ぶるが如く初等数学が教授の目的に二あり
第一 階梯予備の数学知識を与うること
第二 数学思想を養成すること 即ち精神的鍛錬
‥‥‥
此の二つの目的の一方にして貫徹せらるるときは,他の一方は自然の結果として達せられるものなり。
故に数学科の教授法を考案するには,必ずしも此の二つの目的に対し,左顧右眄するを要せず。
其の一方に着目すれば可なり。
且つそれ中学教育を受る者の一大部分は将来に数学知識を要す。然れども兎に角に一部分なり。
数学思想は中学教育を受くる者全体に欠くべからざる。
されば,一般に論ずるときは,初等数学科教授の目的は,精神的鍛錬にありとすることを得べし。
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- 「算術」: 実質陶冶
『算術条目及教授法』
pp.3,4.
普通教育中,初等数学化の教授法は専ら精神的鍛錬を目的とすべきこと,前節既に論ずるが如し。
然れどもこれは初等数学全体に就き概論するものにして,今特に算術に就きて論ずるときは,大いに事情の異なるものあり。
‥‥‥
精神的鍛錬を外にして,算術教授の一大目的あり。
世俗に所謂読み十露盤の十露盤にして,即ち日用計算に習熟せしめ,併せて生業上有益なる知識を与うるにあり。
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- 「算術中に理論なるものあることなし」──「算術」と「代数」を分ける
『算術条目及教授法』
p.9.
算術の理論は代数にして,算術の上に代数ありとするときは,算術中に理論なるものあることなし。
故に算術に於ては,類似法あり,法則あり,説明あり,解析あり,然れども証明あることなし。
算術中の法則は帰納的の性質又公理的の性質を帯ぶるものなり。
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「算術に理論なし」の立場は,二通りの解釈が立つ:
- 「算術は,"読み書きそろばん" の "そろばん" であるべし」
- 「理論流儀算術を阻却すべし」
ここで「理論流儀算術」は,寺尾寿 の『中等教育算術教科書』 に表されているものである。
藤沢が理論流儀算術を批判する者になる理由は,つぎのようになる:
- 数え主義の数は, 「数の構成」の数であり,数論の数。
理論流儀算術の数は, 「数の使用」の数であり,代数の数 (「数は量の比」):
- 「量表現の数」
「量の測定」として,これは代数の数
しかし「数は量の抽象」にすると,これは集合論の数になる。
- 「量計算の数」──これは,代数の数
- 数学の伝統は,数論と代数を分けてきた。
ただし藤沢は,理論流儀算術批判のロジックを「理論は難しくて無理!」にする。
しかし,「難しくて無理!」は,自家撞着になるロジックである。
実際,藤沢の流儀も,実行に移されるや,「難しくて無理!」を呈していく。
そして「算術に理論なし」も,そもそも無理なスタンスである。
- 算術教科書の作成
藤沢の算術教科書の特徴はつぎの通り:
- 数が「数の構成」の数であって, 「数の使用」の数 (「数は量の比」) でない
- 数学 (数) と実用 (数に単位がつく) の並列構成
- 内容が網羅的──これは「学習負担が大」に通じる
- 練習問題が多い (鍛錬重視) ──これも「学習負担が大」に通じる
- 参考文献
- 藤沢利喜太郎
- 『算術条目及教授法』, 1895.
国立国会図書館デジタルコレクション
:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/811540/8
- 『算術教科書』大日本図書, 1896.
国立国会図書館デジタルコレクション
上巻:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/826836
下巻:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1080994
- 『算術小教科書』大日本図書, 1898.
国立国会図書館デジタルコレクション
上巻:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/826972
下巻:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1082945
- 『世界大百科事典 第2版』「藤沢利喜太郎」, 平凡社, 1993.
- Knilling, Rudolf [著], 佐々木吉三郎 [解説] :『算術教授法真髄 : 数へ主義 (上・下)』, 同文館, 1806.
- 参考ウェブサイト
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