Up 「テンソル」の数学 :「テンソル積」 作成: 2018-01-23
更新: 2018-02-25


    「テンソル」は,数学から出て来たのではない。
    計算形式のあるものが「テンソル」と呼ばれてきたという経緯が,先ずある。
    数学は,「テンソル」を数学的に定式化して,「テンソル」の数学をつくる。

    この定式化は,「テンソル」と呼ばれてきたもの全体を収納するものとはなっていない。 即ち,「テンソル」と呼ばれてきたものには,この定式化からはじかれるものがある。
    例えば,「テンソル」といえば必ず主題になる「計量テンソル」は,この定式化から外れる。


    数学の「テンソル」は,簡単にいうと,記号「\(\otimes\)」の文法──「テンソル積」──である。
    その数学がどんなものかを,はじめに見ておく。


    つぎのように措く:
      \( U,\, V,\, W\) : 体 \(K\) 上のベクトル空間
      \( \phi \) : \(U \times V\) から \(W\) への双線型写像

    「長方形の面積」が最も卑近な例になるので,これをイメージにもつとよい:
      \( U\) : タテ(長さ) 全体
    \( V\) : ヨコ(長さ) 全体
    \( W \) : 面積全体
    \( \phi \) : (タテ \({\bf x}\), ヨコ \({\bf y}) \longmapsto\) タテ \({\bf x}\), ヨコ \({\bf y}\) の長方形の面積
    \(\phi\) は,タテ,ヨコの一方を固定したとき線型写像である:
       タテの長さが2倍,3倍,‥‥ になれば,長方形の面積も2倍,3倍,‥‥ になる。
    ヨコについても同じ。
    この「一方を固定したとき線型」を,「双線型」というのである。


    つぎは,集合 \(U \times V\) 上の同値関係になる:
      \[ ({\bf x},\,{\bf y}) \sim ({\bf x'},\,{\bf y'}) \ :\ \phi({\bf x},\,{\bf y}) = \phi({\bf x'},\,{\bf y'}) \]
    この同値関係による \(U \times V\) の商集合を「\(U \bigotimes V\)」で表す。
    また,\( ({\bf x},\,{\bf y})\) が代表元になる同値類を,「\({\bf x} \otimes {\bf y}\)」で表す。

    「長方形の面積」の場合,「\(U \bigotimes V\)」は「タテ\(\bigotimes\)ヨコ」である。
    これは,長方形の面積が同じになる (タテ, ヨコ) の類別である。
    そして,例えば「タテ3cm,ヨコ4cm」と「タテ2cm,ヨコ6cm」は,長方形の面積が同じになるから,「3cm \(\otimes\)4cm = 2cm \(\otimes\)6cm」となる。


    \(U \bigotimes V\) は,体 \(K\) 上の線型空間になる。
    そして,最後の仕上げが,つぎの図式を可換にする線型写像 \(\bar{\phi} \) である :
      要素の対応で書くと:

      ここで「can.」は, 「標準写像 canonical map」の意味。


    \(\bar{\phi} \) は,「長方形の面積」の例だと,「公式 : タテ × ヨコ = 面積」と解釈されるものになる。
    実際,「\(\bar{\phi} \) : タテ\(\otimes\)ヨコ \( \longrightarrow \) 面積」に対しては,このように読むのみである。

    ここに,「計算公式」を身分とする数学的対象が得られたことになる。
    そして「テンソル」がこのときの手法がであったことから,「計算公式」は「テンソル」と関係していることが予想される。
    実際,「計算公式とはテンソルのことだ」が,結論として用意されているものである。


    計算公式が「計算公式」である所以は,量計算式の場合だと「単位を変えても形式が保たれる」である。
    そこで,一般に計算公式が「計算公式」である所以は,「座標を変えても形式が保たれる」である。

    「座標を変えても形式が保たれる」がどうして要点になるのか?
    それは,「存在は表現に先立つ」の存在論に立つからである。
    「公式」には,「存在」を直接指すものとして,表現に依らないことが求められる。
    そして,「表現に依らない」の存在様式は,「形式」である。