Up Dedekind 切断による実数の定義  


    数学は,有理数を素材にして実数をつくる── 有理数から実数を生み出す。
    有理数から実数を生み出す方法には,Cauchy列を用いるものと, Dedekind切断で実数を定義するものの,2つがある。

    「既存の数の系から新しい数を生み出す」は,分数と整数を自然数から構築するところでもやっている。 そしてそのときには,構築の手順が存在した:
      自然数の積集合 × をつくる。
    この集合の要素 (すなわち,自然数の対) の間の同値関係を,「外項の積=内項の積」で定義するとき,この同値関係による × の商が,分数の系になる。
    また,同値関係を「外項の和=内項の和」に替えれば,整数の系になる。

    しかし,実数の構築の場合,Cauchy列の方法でも Dedekind切断の方法でも,有理数から実数をつくる手順は与えられない。 したがって,実数のこれらの導入には,何か<だまし>のようなものをどうしても感じることになる。 しかし,この<だまし>も,数学のうちである。

    以下,Dedekind切断のアイデアを述べる。

    「有理数から実数を生み出す」をやるわけであるが,結果先取りで,実数直線を考える。 そして,この直線を包丁で真っ二つに切断することを考える。
    この切断は,刃先が有理数にあたるものと,無理数にあたるものの,二通りになる。

    実際には,無理数はいまから構築するのであって,無理数はまだ存在しない。 そこで,実数直線から無理数を除いて,有理数だけにする。
    すると先の切断は,刃先が有理数にあたるものと,刃先が何にもあたらないものの,二通りになる。 前者を「コツン(とあたる)」タイプ,後者を「スルー(と抜ける)」タイプと,呼ぶことにしよう。


    さて,Dedekind切断のアイデアは,「<切断>を<数>にしてしまう」というものである。
    このとき,コツンタイプをこれまでの有理数と同一視し,スルータイプを「無理数」と定める。 そして,両者合わさって「実数」となる。

    コツンタイプは,あたった有理数nを用いて, の二分割 { ]←, n], ]n, →[ } あるいは { ]←, n[, [n, →[ } で表すことができる。
    しかし,スルータイプの方は, の二分割として記述する一般的形式は存在しない。無理数ごとに,個別に考えていくことになる。