ここで,「比例」の現行指導内容との対照として,「比例」の数学に沿って授業を構成したらどういうふうになるかを示してみる。
行うことは,授業をつぎの順序に構成することである:
1.「比例関係」
(1)「比例関係」の導入
(2)「比例関係」の外延
2.「y=ax」
(3) 単位の導入,数値の対応
(4) 数値の対応のきまり
(5)「比例定数」
各項目に対応する授業イメージを,教師 (T) と生徒 (P) のことばを用いて,以下に書いてみる。
(1)「比例関係」の導入
T. | 「等速」ってどういうことだろう? |
P. | 同じ時間に同じ距離。 |
T. | 時間が2倍だと? |
P. | 距離が2倍。 |
P. | 時間が3倍だと,距離も3倍。 |
T. | 逆に「時間が2倍,3倍,‥‥のとき距離も2倍,3倍,‥‥だったら等速」と言える? |
P. | 「同じ時間に同じ距離」になっている。言える。 |
T. | 2つの量の間の関係で,一方が2倍,3倍,‥‥のとき他方も2倍,3倍,‥‥の関係を,「比例関係」という。 |
註 : |
2つの表現「同じ時間に同じ距離」と「時間が2倍,3倍,‥‥のとき距離も2倍,3倍,‥‥」の関係は,つぎのようになる。
「同じ時間に同じ距離」は,これより,時間→距離の関数fが立つことになる。
さらにこの表現の背後には「2つの時間を合わせた時間には,2つの時間それぞれで移動した距離を合わせた距離だけ移動する」がある。
よって,「同じ時間に同じ距離」は,「f(q+q′) =f(q) + f(q′)」になる。
一方,「時間が2倍,3倍,‥‥のとき距離も2倍,3倍,‥‥」は,「f(q × n) =f(q) × n」である。
そして,「f(q+q′) =f(q) + f(q′)」と「f(q × n) =f(q) × n」は,有理数,実数への拡張も含め,同値になる ( 証明は数の拡張に乗せていくものである → 証明)。
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(2)「比例関係」の外延
T. | 「等速」を「時間と距離の比例関係」と見られるようになった。 |
T. | 2量の比例関係 (「一方が2倍,3倍,‥‥のとき他方も2倍,3倍,‥‥」) として見ることのできるものは,他には? |
P. | 針金の「均質」 (「長さが2倍,3倍,‥‥のとき重さも2倍,3倍,‥‥」) |
P. | 水道の蛇口からの水の出方の「一様」 (「時間が2倍,3倍,‥‥のとき嵩も2倍,3倍,‥‥」) |
(3) 単位の導入,数値の対応
T. | 「等速」を「時間と距離の比例関係」と見られるようになった。
この度は,時間と距離の単位を決めて,時間と距離の対応を,時間の単位何倍と距離の単位何倍の対応で表せるようにしよう。 |
T. | いま等速でランニングしているとする。
時間の単位を「秒」,距離の単位を「m」にする。
そして,20秒で100mのペースだとする。 |
T. | 時間をいろいろ変えて,時間と距離の対応をつくってみよう。 |
T. | つぎに,その対応から,数値と数値の対応を抜き出してみよう。 |
T. | 量と量の対応から数と数の対応が導けた。 |
(4) 数値の対応のきまり
T. | この数と数の対応には,何かきまりが見つかるかな? |
P. | 5倍。 |
T. | 今度は,単位を「分」,距離の単位を「km」にする。
分と km を単位にして,さきほどの「20秒で100mのペース」の対応を作り替えてみよう。 |
T. | そして,その対応から,数値と数値の対応を抜き出してみよう。 |
T. | どうなった? |
P. | 0.3倍。 |
T. | 0.3はどこから出てくるのか? |
T. | 時間の単位「分」の対応先が,時間の単位「km」の0.3倍。 |
(5)「比例定数」
T. | 2量の比例関係で,2量それぞれの単位を決めるとき,比例関係から数と数の対応が導かれる。
この対応にはどんなきまりがあると言える? |
P. | 同じ倍。 |
P. | その数は,一方の量の単位の対応先を考えたとき,他方の量の単位に対するこれの値 |
P. | 単位を変えると,倍も変わる。 |
T. | この「一定数倍」の数を,「比例定数」と呼ぶ。
大事なこととして,比例定数は単位の取り方に依存する。 |
量の系
( ( Q1, + ), ×, ( N, +, × ) ),
( ( Q2, + ), ×, ( N, +, × ) )
と関数
f:Q1 → Q2
に関する「f(q+q′) =f(q) + f(q′)」と「f(q × n) =f(q) × n」の同値を証明する。
1.
「f(q × n) =f(q) × n」
「f(q+q′) =f(q) + f(q′)」
q =u×n,q′ =u×n′ とする。
f(q+q′)
=f((u×n) + (u×n′ ))
=f(u× (n+n′ ))
=f(u) × (n+n′ )
=(f(u) ×n) + (f(u) ×n′ )
=f(u ×n) + f(u ×n′ )
=f(q) + f(q′)
2.
「f(q+q′) =f(q) + f(q′)」
「f(q × n) =f(q) × n」
これの証明は,数の系を自然数から始めて,整数,有理数,実数へと拡張する形をとる。
(1) Nが自然数の場合
数学的帰納法で証明:
1゜ | f(q × 1) =f(q) =f(q) × 1 |
2゜ | f(q × (n+1))
=f((q × n) + (q ×1))
=f(q × n) + f(q ×1)
=(f(q )× n) + (f(q) ×1)
=f(q ) × (n+1) |
(2) Nが整数,有理数,実数の場合
(1) で「一方の2倍,3倍,‥‥に他方の2倍,3倍,‥‥が対応する」が証明された。
そして,「一方の2倍,3倍,‥‥に他方の2倍,3倍,‥‥が対応する」からは,整数,有理数,実数係数での「一方の○倍に他方の○倍が対応」が導かれる ( → 証明)
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