Up 「比例」の数学 作成: 2013-11-20
更新: 2013-11-30


    「比例」は,「2量の間の比例関係」のことであり,これはつぎの言い回しで定義される:
      「2量の間の対応関係で,
       一方の2倍,3倍,‥‥に他方の2倍,3倍,‥‥が対応する」

    この定義は,一見,有理数倍および実数倍を欠く不完全な定義に見える。
    しかし実際には,有理数および実数○に対する「一方の○倍に他方の○倍が対応」がこの定義から導かれるので,定義として問題ない ( 証明は数の拡張に乗せていくものである → 証明)。

    いま,f:量1 → 量2 を比例関係とする。
    「一方の○倍に他方の○倍が対応」は,式で書くとつぎのようになる:
      f( × n) = f() × n  ( ∈ 量1,n:数)


    つぎのステージは,量1,量2 それぞれにおいて,単位 12 を固定することから開始される。

    1 の任意の要素1 は,1 の何倍の形に書ける:
      11 ×1
    これを,つぎのように言っているわけである:
      「単位1 に対する1 の(測定)値は,n1

    2 の場合も同様である。
    そこで,f:量1 → 量2 からは,数値の対応が導ける。
    この対応をφ(ファイ) とする:
      φ:数 → 数

    さて,fには「一方の○倍に他方の○倍が対応」のきまりがある。
    そこで,「fから導かれるφにも何かきまりが見出されるはずだ」と考えるのは,自然である。
    そして,きまりを求めてみると,「一定数倍」が求まる:
      φ:n├─→ n × a
    aは,f(1) = f(2) × a となる数である。
    これが,学校数学の「y=ax」であり,aを「比例定数」と呼ぶ。

    「y=ax」の要点は,つぎの2つである:
    1. 「y=ax」は,数と数の間の対応
       (「比例関係」は,量と量の間の対応)
    2. 「比例定数」aは,2量での単位の取り方に依存


    そして,以上の内容は「線型空間」の数学と対比できるものになる:
    1. 「量」は,「線型空間」と対応
    2. 「比例関係:量1 → 量2 」は,「線型写像:線型空間1 → 線型空間2 」と対応
    3. 「単位」は,「基底U= (1, ‥‥, )」と対応
    4. 「単位 に対する量 の(測定)値」は,「基底Uに対するベクトル の座標」と対応
    5. 「量1 の単位 1,量2 の単位2 に対し比例関係f:量1 → 量2 から導かれる比例定数」は, 「線型空間1 の基底U1,線型空間2 の基底U2 に対し線型写像f:線型空間1 → 線型空間2 から導かれる行列 (「fの表現行列」)」と対応

    実際,この対比は,実数係数の「量」と「1次元線型空間」が同じものになることに因っている。
    (そして実数係数では,「比例定数a」は「1×1行列 (a)」と同じ!)





    「一方の2倍,3倍,‥‥に他方の2倍,3倍,‥‥が対応する」から,整数,有理数,実数係数での「一方の○倍に他方の○倍が対応」が導かれることの証明:
    先ず,つぎのことに留意する ( 『「数とは何か?」への答え』):
      量の系 ( ( Q, ), ×, ( N, +, × ) ) は,( ( N, + ), ×, ( N, +, × ) ) と同型に立てられる。
      即ち,Q はでない∈Qに対する{ ×n|n∈N}の形になり,つぎの対応が ( ( N, + ), ×, ( N, +, × ) ) と ( ( Q, ), ×, ( N, +, × ) ) の間の同型になる:
        n├─→ ×n (n∈N)

    Nが負数をもつ数 ( e.g. ) の場合,各∈ Q には対称元 ーがある。さらに,つぎが成り立つ:
      × n= (ー (ーn)

      証明:
      × aとする。
      × n= × (a×n)。
      a×nと ー(a×n) は,互いに対称元。 そこで, × (a×n) と × (ー(a×n)) は,対称元。
      また, × (ー(a×n)) と (−) × (ー(a×n)) は,足してになるので,対称元。
      そして,
        (ー) × (ー(a×n)) = ((ー) ×a) × (ーn) = (ー( ×a)) × (ーn) = (ー) × (ーn)
      結局, × n= (ー (ーn)

    量の系 ( ( Q1, ), ×, ( N, +, × ) ), ( ( Q2, ), ×, ( N, +, × ) ) と関数 f:Q1 → Q2 において,つぎが成り立っているとする:
      f( × n) = f() × n (n= 2, 3, ‥‥ )
    但し,Nが0をもつ数のときは,つぎを条件にする:
    1. f( × n) = f() × n (n= 0, 1, 2, 3, ‥‥)
    2. (「非退化」)
      f() = ,かつf() = となるに限る。

    つぎが成り立つ:
    1. fは1対1
    2. f(ー) = ーf()

      証明:
      1. f() = f(q′) とする。
        ×a,q′×a′ とすると,
           f() ×a′
          =f(×a) ×a′
          =f() × (a×a′ )
          =f(×a′ ) ×
          =f(q′) ×
          =f() ×
        よって,a′ =a。
        結局,q′
      2. f(ー) = f() ×n とする。
        f(ー) = f() ×n =f(×n) より,ー×n。
        よってn=ー1。
        f(ー) = f() ×n = f() × (ー1) = ーf()。

    以上の準備のもと,これより本題の証明に入る。

    (1) Nが整数の場合
     f( × (ー2)) =f() × (ー2) を示す:
        f( × (ー2))
      = f((ー) × 2)
      = f(ー) ×
      = (ーf()) ×
      = f() × (ー2)

    (2) Nが分数 (正の有理数) の場合
     f( × 2/3) =f() × 2/3 を示す:
      × 2/3 =q′ とする。
      これは,つぎの条件を満たす∈Q1 が存在するということ:
        × 3 =
        × 2 =q′
      「Nが自然数の場合」に還って,
        f() × 3 =f( × 3) =f()
        f() × 2 =f( × 2) =f(q′)
      そしてこれは,f() × 2/3 =f(q′) ということ。

    (3) Nが実数の場合
     f( × π) =f() × π を示す:
      {nk|k=1,2,‥‥}を,πを定める有理数の Cauchy列とする。
      先ず,{ ×k|k=1,2,‥‥}が,Q1 における Cauchy列になり,これより{f( ×k)|k=1,2,‥‥}が,Q2 における Cauchy列になる。 そして,これが定めるQ2 の要素はf( ×π)。
      また,Cauchy列{f( ×k)|k=1,2,‥‥}は,「Nが有理数の場合」に還って,{f() ×k|k=1,2,‥‥}であり,そして,{f() ×k|k=1,2,‥‥}が定めるQ2 の要素はf() ×π。
      よって,f( × π) =f() × π。