Up 創発・安定 作成: 2015-10-29
更新: 2015-10-29


    学校数学の歴史には,学校数学の方向・形がどちらになるかで混沌とする時局がある。
    カオス理論の謂う分岐点である。
    地形に喩えれば,分水嶺である。
    システム論の言い方を用いれば,「創発 emergence」である。
    ここでは,小さな偶然が,系のつぎの位相を決定する。
    谷に下った水は,嶺の向こう側に戻ることはない。

    例えば,学校数学の数は「数は量の抽象」であるが,これは過去に「数は量の抽象」と「数は量の比」が混沌とする時局があって,「数は量の抽象」が「数は量の比」に勝った結果である。
    数学の数は「数は量の比」であるので,学校数学は数の指導で様々に無理なロジックの継ぎ接ぎをやっていくことになる。 しかし,一旦「数は量の抽象」になった学校数学は,「数は量の比」に戻ることはない。

    実際,いまの「かけ算・わり算」の指導は「二重数直線」を使うものになっているが,これは「数は量の抽象」である。
    そして,この「二重数直線」もまた,一つの「分水嶺の一方の側に落ちた水」である。
    学校数学をつくる者と「かけ算・わり算は二重数直線で」の考えをもつ者が,たまたま重なった。
    こうして,水は「二重数直線」の側に落ちる。
    「かけ算・わり算」の指導は,「二重数直線」で固定となる。


    学校数学は,一旦決まれば,そのまま固まる。
    他の形には戻らない。

    人の生業はいまの形で落ち着いてしまっている。
    この安定の攪乱は,生態系のダイナミクスが抑え込む。
    生態系は,そのような力学系である。
    生態系は,安定の攪乱に対してはこれを抑え込む。

    例えば,「7÷3=2余り1」。
    これは「=」記号の文法の逸脱であるから,学校数学作成に携わる者はみな改めたいのだが,改められない。
    人の生業がこの形で落ち着いてしまっているからである。
    「帯分数」なども,この類である。