エルゴード仮説 :
「システムは,可能なすべての場合をランダムに巡回する」
インク液と水を混ぜると,均質へと向かう。
インク液と水の「混ざる」が均質へ向かうことは,これを確率事象ととらえることで説明される:
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インクと水が均質に混じるのは,そうなる確率が 99.999‥‥‥ %だからである (100%ではない)。
インクと水が別々に分かれないのは,別々に分かれる確率が 0.000‥‥‥ %だからである (0%ではない)。
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「統計的に確率の高い状態が実現される」が,「混ざる」の意味というわけである。
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都筑卓司『マクスウェルの悪魔──確率から物理学へ』
講談社 1970, pp.82-92.
簡単な直方体の箱を考え、左半分に百個の白玉を、右半分に百個の赤玉を入れたとする。
箱の中に、仕切りがあるわけではないが、静かに置けば玉は動かないから、左側は白く、右側は赤い。赤イシキを水に落とした瞬間の状態がこれである。
容器をガラス製にしておけば、外からみてよくわかる。‥‥‥
次に容器を充分に振ってやる。‥‥‥
長時間よく振ってやれば、容器の左の方でも右の部分でも、隅でも真中でも、赤と白とが半々になるはずである。
これが完全にまぎった状態である。‥‥‥
赤と白との個数を同じにして、玉のかずをふやしていけば、左右均等の場合が、その他の状態にくらべて、ずばぬけて多くなってくる。
左右均等 (一様にピンク色) になる場合だけ、何通りあるかを勘定してみよう。
(玉のかず) | | (左右均等の組み合わせのかず) |
赤6、白6 | ‥‥‥ | 400 通り
| 赤8、白8 | ‥‥‥ | 4900 通り
| 赤十、白十 | ‥‥‥ | 63504 通り
| 赤百、白百 | ‥‥‥ | ほぽ 1060 通り(註)
| 赤千、白千 | ‥‥‥ | ほぽ 10600 通り
| 赤1万、白1万 | ‥‥‥ | ほぽ 106000 通り
| ‥‥‥ | | ‥‥‥ |
[一方,] 完全分離の状態は、いかに玉のかずが多くなっても、一通りしかない。
百個の赤玉と百個の白玉とが自由に容器の中を動いていて、これを観測し続けたとする。
もしも完全に赤白が左右に分離した状態の延べ時聞が一秒であったとすると、左右均一の状態を眺めた延べ時聞はほぼ
1060 秒
= 3 × 1056 時間
= 1055 日
= 3 × 1052 年
になり、地球の年齢である数十億年(108 年 の数倍〉の 1044 倍ほどになってしまう。
だから、地球の誕生とともにこの容器を眺め続けたひとが仮にあったとしても、このひとが赤玉と白玉とが完全に分離した状態を認めることができるのは、一秒間よりも、遙かに遙かに遙かに‥‥‥短い一瞬間(ほとんど、無いに等しい時間)である。
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このときの「混ざる」は,「均質」が平衡状態になる。
ここで,「系のいまの状態は,平衡状態に対しどのような位置にあるか?」の問いを立て,「系の状態量」の立論を企てる。そうすると,「エントロピー」の論になる。
註: |
「赤百、白百 ‥‥‥ ほぽ 1060 通り」の計算を以下に示す。
──併せて,この組み合わせのかずが,「赤百,白百が左右に混ざる組み合わせのかず」の何%になるか,計算してみる。
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- 赤百,白百が左右に混ざる組み合わせのかずは,赤白二百のうちから左にくる百をとる場合の数と同じだから,
200C100
= 200!/ ( (200ー100)!× 100!)
= 200!/ ( 100!× 100!)
赤百,白百が左右均等になる組み合わせのかずの計算は,赤百から左にくる50,白百から左にくる50 をとる場合の数の計算で,これは
100C50 ×
100C50
= 100!/ ( (100ー50)!× 50!) × 100!/ ( (100ー50)!× 50!)
= 100! × 100! / (50!× 50!× 50!× 50! )
- 200!の桁数:log10200!
= log10e × loge200!
100!の桁数:log10100!
= log10e × loge100!
50!の桁数:log1050!
= log10e × loge50!
- スターリングの近似公式より
loge200!
=200 × loge200 ー 200
loge100!
=100 × loge100 ー 100
loge50!
=50 × loge50 ー 50
- loge200
= log10200 / log10e
= (2 + log102) / log10e
loge100
= log10100 / log10e
= 2 / log10e
loge50 =
= log10100/2 / log10e
= (2 ー log102) / log10e
- log10e = 0.4343
log102 = 0.3010
を,(4) の式に代入,
loge200
= (2 + 0.3010) / 0.4343
= 5.298
loge100
= 2 / 0.4343
= 4.605
loge50
= (2 ー 0.3010) / 0.4343
= 3.912
- (5) の式を,(3) に代入
loge200!
=200 × loge200 ー 200
=200 × 5.298 ー 200
=859.6
loge100!
=100 × loge100 ー 100
=100 × 4.605 ー 100
=360.5
loge50!
=50 × loge50 ー 50
=50 × 3.912 ー 50
=145.6
- (6) の式を,(2) に代入
log10200!
= log10e × loge200!
= 0.4343 × 859.6
= 373.3
log10100!
= log10e × loge100!
= 0.4343 × 360.5
= 156.6
log1050!
= log10e × loge50!
= 0.4343 × 145.6
= 63.23
- (7) の式を,(1) に代入
赤百,白百が左右均等になる組み合わせのかず 100! × 100!/ (50!× 50!× 50!× 50!) の桁数は,
2 log10100! ー 4 log1050!
= 156.6 × 2 ー 63.23 × 4
= 60.3 (「ほぼ 60」)
<赤百,白百が左右に混ざる組み合わせのかず>に対する<赤百,白百が左右均等になる組み合わせのかず>の比は,
( 100! × 100! / (50!× 50!× 50!× 50!) / ( 200!/ ( 100!× 100!) )
桁数の比 (底eから底10への変換は計算誤差を大きくするので,自然対数でこれを計算する) では,
( 2 loge100! ー 4 loge50!) / ( loge200!ー 2 loge100!)
= ( 2 × 360.5 ー 4 × 145.6 ) / ( 859.6 ー 2 × 360.5 )
= 138.6 / 138.6
計算誤差を考え合わせても,これは「<赤百,白百が左右均等になる組み合わせのかず>は<赤百,白百が左右に混ざる組み合わせのかず>の 99.9%以上」を示唆している。
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