Up ムクドリの群飛──鳥学者は「波動」を知らない 作成: 2023-06-02
更新: 2023-06-02


波とは何か

    科学物の番組制作者は,奇天烈(きてれつ)なネタを求める。
    視聴者は,地味な内容に惹かれないからである。

    NHK はこれが多い。
    最近では,2023-05-27 放送「新発見!鳥たちの不思議な能力」の中の「鳴き声によるコミュニケーション」。
    ムクドリの群飛に対するつぎの解釈を採用:
     《 群飛の端にいる数羽が,群れに対し「旋回しよう」のメッセージを鳴き声で発する》

    さらに続けて,つぎを「鳴き声によるコミュニケーション」として採用:
     《 キンカチョウ数羽を一緒に飛ばす風洞実験では,キンカチョウは鳴き声を発する──これは,自分の位置を知らせ,互いにぶつからないようにするため──つばさがぶつかれば致命的なけがを負う可能性があるから》


    「群飛の端にいる数羽が鳴き声で発する」の「端の数羽」は,どうして決まる?
    その鳴き声で群飛のかたまりが実現される?

    サンマの群泳は,ムクドリの群飛と似たかたまりをつくる。
    そしてこの群泳は,肉食の大型の魚等の群れに襲われるときの対応の形でもある。
    鳥学者に倣えば,これはつぎの解釈になる:
     《 四方八方から敵が攻撃してくるとき,群泳の端にいる数匹が,群れに対し「旋回しよう」のメッセージを鳴き声で発する》


    ムクドリの群飛,サンマの群泳のメカニズムは,「波動」である。
    《個同士が互いに同調しようとする》の単純なメカニズムによって,群飛・群泳の模様になる。
    実際,群飛・群泳の模様は,トップダウンの指令で成るものではない。
    <個の自発>の単純なルールによって成るしかないのである。

    群飛・群泳では,当然,密なところができる。
    そこでは,体が触れ合うこともある。
    そのとき,個は動きを抑えるという形で対応する。
    ムクドリであれば,羽ばたきを抑えるという形で対応する。


    風洞実験のキンカチョウは,異常事態に驚いて鳴いているのである。
    しかし「鳥のコミュニケーション」で業績をつくらねばならない研究者たちは,その鳴き声を無理矢理「コミュニケーション」に解釈しようとする。

    苦痛で悲鳴をあげることは,自分の位置を同類が知るとか,同類が危険に警戒するという効果をもつ。
    しかしその悲鳴は,「わたしがここにいる!」「危険に対応せよ!」のコミュニケーションではない。

    こんなあたりまえのことを言っておかねばならないのは,「植物のコミュニケーション」で業績をつくることに一生懸命な研究者もいるからである。
    動物の悲鳴に似たものは,植物にも──或る種の化学物質の放出という形で──ありそうである 。
    しかしそれは,同類に対する「わたしがここにいる!」「危険に対応せよ!」のコミュニケーションではない。