Up 北教大「ホームページ管理運用要項」の読み方 作成: 2006-04-05
更新: 2006-04-05


    一般に,組織の規則をつくろうとする場合,

    • 組織員の統制を優先するか,組織員の自由を優先するか
    • 含意が曖昧な表現にするか,含意が厳格な表現にするか

    の2様の二者択一を考える。そして,この選択肢から,規則を4つのタイプに区分するつぎのマトリックスが導かれる:
曖昧規定厳格規定
統制(統制, 曖昧規定)(統制, 厳格規定)
自由(自由, 曖昧規定)(自由, 厳格規定)
    どのタイプが選ばれるかは,ケース・バイ・ケースであり,どれがよい・悪いという問題ではない。
    例えば,自由主義体制では,国会の立法の場合は,<国家発動=国民統制>的な法に対しては規定の厳格表現で臨む。なし崩し的に適用されてしまう事態を警戒するためだ。逆に,一般者の自由の制限は,無用な束縛をつくらないように,むしろ不文律にする (マナーの問題にする)。

    前衛主義だと,この関係が逆転する。執行部の裁量がいくらでも効くように統制の規定は曖昧に表現され,国民義務が事細かに規定される (思想教育)。
曖昧規定厳格規定
統制(統制, 曖昧規定)(統制, 厳格規定)
自由(自由, 曖昧規定)(自由, 厳格規定)
  : 自由主義,  : 前衛主義

    さて,大学のホームページ管理運用規定は,統制法である。
    一般に,統制法では,統制が自由の侵害に進むことを防ぐための「自由保障」(自由の担保,人権保障)の規定を何らかの形で組み入れて,統制と自由のバランスをとる。

    先ず,この視点から「国立大学法人北海道教育大学ホームページ管理運用要項」 (以下,「要項」)をながめてみると,「要項」では「言論の自由の保障」という視点は抜けている。──ただし,これは故意ではなく,この視点を知らなかったということだろう。


    つぎに,「要項」のすべてのおおもとである「大学ホームページ」の定義であるが,
    執行部はほんとうにこれで構わないのだろうか?
    という疑問を (余計なお世話かもしれないが) もつ。
    実際,「要項」の機能は,「大学ホームページ」の定義によってガラっと変わる。

    論理的に直接的な読み方 (この意味で「模範的な読み方」) は,つぎのようになる:

      第2
      本学ホームページは,全学のホームページ (http://www.hokkyodai.ac.jp) 及び全学のホームページからリンクする各校のホームページ(これはすなわち, http://www.sap.hokkyodai.ac.jp, http://www.hak.hokkyodai.ac.jp, http://www.asa.hokkyodai.ac.jp, http://www.kus.hokkyodai.ac.jp, http://www.iwa.hokkyodai.ac.jp) のことであるとする。

      第5
       各校のホームページに講座,研究室等のページをリンクする場合は,当該ぺ一ジの責任者を明確にした上で,各校の責任において行うものとし,情報掲載においては,第4各号を遵守するとともに,適切かつ正確な情報を提供するものとする。

        裏返すと,ドメイン hokkyodai.ac.jp に存在するページであっても,6機のサーバ www.hokkyodai.ac.jp, www.sap.hokkyodai.ac.jp, www.hak.hokkyodai.ac.jp, www.asa.hokkyodai.ac.jp, www.kus.hokkyodai.ac.jp, www.iwa.hokkyodai.ac.jp とは別のマシンに構築されたホームページで,http://www.sap.hokkyodai.ac.jp, http://www.hak.hokkyodai.ac.jp, http://www.asa.hokkyodai.ac.jp, http://www.kus.hokkyodai.ac.jp, http://www.iwa.hokkyodai.ac.jp からリンクされていないページは,この規定の適用の及ぶものではない。

      第6
       広報企画室室長は,
        (1) 本学ホームページ (第2号で定義)
        (2) 各校のホームページからリンクされた講座,研究室等のページ
      のいずれかにおいて,第4各号のいずれかに該当する場合又は大学の広報として不適切なページと判断した場合は,当該ページの責任者に対し,情報の修正又は削除を求めることができる。

        裏返すと,ドメイン hokkyodai.ac.jp に存在するページであっても,6機のサーバ www.hokkyodai.ac.jp, www.sap.hokkyodai.ac.jp, www.hak.hokkyodai.ac.jp, www.asa.hokkyodai.ac.jp, www.kus.hokkyodai.ac.jp, www.iwa.hokkyodai.ac.jp とは別のマシンに構築されたホームページで,http://www.sap.hokkyodai.ac.jp, http://www.hak.hokkyodai.ac.jp, http://www.asa.hokkyodai.ac.jp, http://www.kus.hokkyodai.ac.jp, http://www.iwa.hokkyodai.ac.jp からリンクされていないページは,この規定の適用の及ぶものではない。


    なぜ,わたしがここでこのような指摘をわざわざ行っているかと言うと,後になって,執行部サイドから
    そのような読み方は想定していない
    と言われては困るからだ。

      ドメインやサーバー,リンクの概念を曖昧にすると,この種の規定は容易に論理的カテゴリー・ミステイクに陥る。
      概念/カテゴリーに気を配っていることがよくうかがわれるホームページ管理運用規定の例として,お茶の水女子大学のものを参照されたい── (模範という意味ではなく) あくまで参考として:「国立大学法人お茶の水女子大学ウェブ・ページ運営規則」


    自衛隊の海外派遣では,「戦闘地域」の定義が重要になる。現憲法では自衛隊は戦闘できない。したがって,派遣先は「戦闘地域」であってはならない。しかし,そのあちこちで戦闘が起こっていれば「戦闘地域」をどう定義するかとなる。また,攻撃に対する自衛は戦闘になる。しかし,自衛隊は「戦闘」できない。またしても「戦闘」をどう定義するか。国会ではこのような議論を「神学論争」の言い方で自ら揶揄するが,つまらないことでもそれを自分の勤めとして「神学論争」をやらなきゃならない。「暇人のやることだ!」にしてしまうと,後で必ず報いが来る。

    「要項」の作成に携わった者,ないしこれの執行に関わりそうな者は,最初に戻って,「大学のホームページ」の神学論争から始めるべきである。