Up 気象と熱力学の存在階層差 作成: 2022-07-02
更新: 2022-07-02


    気象学がこれの基礎と定める熱力学は,つぎの命題である:
      気体は,
      1. 体積一定のとき,圧力が温度に比例する
      2. 圧力一定のとき,体積が温度に比例する
      3. 温度一定のとき,体積が圧力に反比例する
     (ここで温度は,絶対温度)

    a の実験は,伸縮しない容器に気体を入れ,何らかの方法で気体の温度を変化させ,容器の内圧の変化を測る。
    b の実験は,伸縮する容器に気体を入れ,何らかの方法で気体の温度を変化させ,容器の体積の変化を測る。
    c の実験は,伸縮する容器に気体を入れ,容器への外圧力を変化させ,容器の体積の変化を測る。
     (ここで容器の「伸縮する」の意味は,「伸縮を以て内圧の変化を無しにする」)


    一方,気象の対象になる空気は,容器に入っていない。
    気象学は「空気の塊」を考えるが,特定された気体分子の集合(註)をもしこのことばで想っているなら,それは動きのある水の中に落としたインクのようなものである。

    気象学は,空気の体積・圧力・温度の関係を捉えているつもりでいる。
    しかしそれは,この場合つぎのように言っているようなものである:
     「 動く水の中で拡散するインクの体積・圧力・温度の関係を,自分は捉えられる」


    動く水の中で拡散するインクの「体積・圧力・温度 (?) の関係」をとらえるとは,どういうことか?
    存在論を
      <インク成分の粒子と水分子が個々に作用し合う系>
    にして,インク成分粒子の全体集合の「体積・圧力・温度 (?) の関係」を定立するということである。
    このとき頼る手法は統計力学ということになるが,これもあくまでも「もしできれば」の話である。 


    特定された気体分子の集合──気体閉体──が「空気塊」のことばで想っているものなら,大気の中のそれは<水中のインク>と同じであり,「体積・圧力・温度の関係」の概念は立たない。
    しかし気象学は,「気体閉体モデルの体積・圧力・温度の関係が空気塊に適用できる」を立場にしている。

    この思い込みは,現実遊離の使えない概念をつくっていく。
    アブストラクト・ナンセンスというやつである。

    気象学のこの(てい)は,どう表現されるか?
    「熱力学と気象の存在階層差がわかっていない」である



    註. 「空気塊」
      「空気塊」は,「特定された気体分子の集合 (気体閉体)」ではない。
    これを構成する気体分子は,絶えず入れ替わっている。
    この絶え間のない入れ替わりは,<風>がこれの現象になる。
    「空気塊」は,風をダイナミクスにして新陳代謝する系である。