Up エントロピー弾性 作成: 2017-07-03
更新: 2017-07-05


    ここでは,加藤岳生『ゼロから学ぶ 統計力学』(講談社, 2013.) の pp.61-66 の内容を,つぎのように改め,書き直す:
      「全エネルギーE」→ 熱エネルギーH
      「エントロピーS = kB log W」→ S = log W
      「温度T」→ 温度β = dS/dH


    ゴムには「熱すると短くなる」という性質がある。
    温度βで言い換えると,《ゴムは冷やすと短くなる》。

    高分子化合物を構成する分子について,つぎのように考える:
    1. 二つの構造a,bからなり,それぞれエネルギー0,εを持つ。
    2. 分子間では相互作用によるエネルギーのやりとりがあり,これにより分子がa型になったりb型になったりする。
    3. a型分子の縦方向の長さは,b型分子に比べて大きい。
      ──これは,ゴムの「熱エネルギーが増えると短くなる」「温度を冷やすと短くなる」と対応することになる。

    いま,N個の分子からなる鎖状高分子化合物があったとき,この系の温度を変化させていくと何が起こるか。

    系のいまの熱エネルギーをHとする。
    b型分子の数をnとすると,
      n = H/ε

    系の状態数Wは,N個の分子のうちどのn個の分子をb型にするかの場合の数:
      W = C = N! / (n! (Nーn)! )

    エントロピー S は,
      S = log W = log N! ー log n! ー log (Nーn)!
    ここでスターリングの近似公式を用いて,
      S = (N log N ー N) ー (n log n ー n) ー ((Nーn) log (Nーn) ー (Nーn) )
        = N log N ー n log n ー (Nーn) log (Nーn)
    さらに変形して
        = ( (Nーn) log N + n log N ) ー n log n ー (Nーn) log (Nーn)
        = ー n log n + n log N ー (Nーn) log (Nーn) + (Nーn) log N
        = (ーn) ( log n ー log N ) ー (Nーn) ( log (Nーn) ー log N )
        = ーn log n/N ー (Nーn) log (1ーn/N )
        = N ( ーn/N log n/N ー (1ーn/N) log (1ーn/N )
        = ーN ( p log p + (1ーp) log (1ーp ) )
    ここで,n/N (全分子数に対するb型分子の数の割合) をpとおいた:
      p=n/N

    0 ≤ p ≤ 1 に留意して,S = ーN ( p log p + (1ーp) log (1ーp ) ) のグラフを描く。

    つぎが y=x log x + (1ーx) log (1ーx) のグラフであった ( エントロピー関数):
    そこで,つぎが S = ーN ( p log p + (1ーp) log (1ーp ) ) のグラフ:
    n = H/ε より,
      p= n/N = H/(Nε)
    この関係を使って,上の p-Sグラフを H-Sグラフに書き直すと:

    「エントロピー増大則」を満たすのは,つぎの部分:

    温度β = dS/dH をグラフに記入するならば:


    また,このグラフから,温度βと熱エネルギーHの対応グラフも読み取れる:
      β=0 のとき, H = Nε/2
      βの増加と Hの減少が対応
      β= ∞ と H = 0 が対応

    なお,βとHの対応式は,H = Nε/ (eεβ +1 )
      これの計算を,以下に示す:
        β = dS/dH
          = dS/dp × dp/dH
          = d(ーN (p log p + (1ーp) log (1ーp) )/dp × d(H/(Nε))/dH
          = ーN ( ( log p+ p・1/p ) + ( (ー1) log (1ーp) + (1ーp)・(ー1/ (1ーp))) × 1/(Nε) )
          = ーN ( log p+ 1 ー log (1ーp) ー1 ) × 1/(Nε) )
          = ー log p/(1ーp) /ε
        よって,
        log p/(1ーp) = ーεβ
        ⇐⇒ p/(1ーp) = eーεβ
        ⇐⇒ p = (1ーp) eーεβ
        ⇐⇒ p (1+ eーεβ ) = eーεβ
        ⇐⇒ p = eーεβ / (1+ eーεβ ) = 1 / (eεβ +1 )
        p= H/(Nε) より
        H/(Nε) = 1 / (eεβ +1 )
        ⇐⇒ H = Nε/ (eεβ +1 )



    以下,加藤岳生『ゼロから学ぶ 統計力学』とは別の考察:

    「エントロピー最大」は,「系の状態で最も確率の高いものの実現」と対応する。
    このとき「エントロピー弾性」の H-Sグラフは,つぎが「系の状態で最も確率の高いものの実現」の内容であることを示している:
    • 熱エネルギーが,全エネルギーの半分
    • 温度が0
    • b型が全体の半分

    ここで,「b型が全体の半分」に着目する。
    実は,ここまでの論全体を通じて「熱エネルギー」の語は空回りしている
    論の中で「熱エネルギー」として機能しているものは,専ら「b型が全体に占める割合」である。
    このことは,つぎのように言ってかまわないことを示している:
      《「熱エネルギー」とは,「b型が全体に占める割合」のこと》


    赤玉,白玉が同数入った箱をずっと振っていくと,均質に混ざったところで落ち着く。
    これは,よく「エントロピー」の主題にされる。
    しかし論者は,この場合の<熱エネルギー → エントロピー>関数を示さない。
    ここで,この関数をここで定めるとしよう。
    「熱エネルギー」概念の形式性を確認することが,ここでの目的である。
    やることは,上の「エントロピー弾性」の方法「b型が全体に占める割合」をなぞることである。

    <熱エネルギー → エントロピー>関数はつぎのように定めればよい:
    1. 赤玉白玉それぞれN個とする。
    2. Nに対する左側にある赤玉の数nの割合 H = n/N を,「熱エネルギー」とする。
    3. <左側にある赤玉の数がn>の組み合わせの数Wを,熱エネルギー H に対する「状態数」とする。
    4. eを底とするWの「桁数」S= log W を,熱エネルギー H に対する「エントロピー」とする。

    この<熱エネルギー → エントロピー>関数を,実際に求めてみよう。

    n個の赤玉が左側にある組み合わせの数Wは,N! × N! /((Nーn)! × (Nーn)! × n! × n!)
      左側の赤玉がn個のとき,左側の白玉は Nーn個。  
      赤玉N個からn個をとる組み合わせの数は,。  
      白玉N個から Nーn個をとる組み合わせの数は,。  
      よって,n個の赤玉が左側にある組み合わせの数Wは:
        W = × Nーn
          = N! /((Nーn)! × n!) × N! /((Nー(Nーn)! × (Nーn!)
          = N! × N! /((Nーn)! × (Nーn)! × n! × n!)

    S = ーM ( H log H + (1ーH) log(1ーH ) ) ──ここで,M=2N (玉の総数)。
      S = log W
        = log (N! × N! /((Nーn)! × (Nーn)! × n! × n!))
        = 2 log N! ー2 log(Nーn)! ー 2 log n!
      スターリングの近似公式を適用して
        = 2 (N logNー N) ー2 ((Nーn) log(Nーn) ー (Nーn)) ー 2(nlog nーn)
        = 2 (N logNー N ー (Nーn) log(Nーn) + (Nーn) ー nlog n+n)
        = 2 (N logN ー (Nーn) log(Nーn) ー nlog n )
        = 2 ( ーn( log nー log N ) ー (Nーn) ( log(Nーn) ー log N )
        = ー2N ( n/N log n/N + (1ーn/N) log (1ーn/N) )
        = ーM ( H log H + (1ーH) log(1ーH ) )

    y = x log x + (1ーx) log(1ーx ) のグラフは,既に求めている:
    そこで,つぎが S = ーM ( H log H + (1ーH) log(1ーH ) ) のグラフ ── 0 ≤ H ≤ 1/2 に留意:
    温度β = dS/dH をグラフに記入するならば:

    このグラフから,温度βと熱エネルギーHの対応グラフも読み取れる:
      β=0 のとき, H = 1/2
      βの増大と Hの減少が対応
      β= ∞ と H = 0 が対応

    実際,関数:β├→ H の式は,H = 1 / (eεβ +1 ) ── ここで,ε = 1/M。
      β = dS/dH
        = d(ーM (H log H + (1ーH) log (1ーH) )/dH
        = ーM ( ( log H+ H・1/H ) + ( (ー1) log (1ーH) + (1ーH)・(ー1/ (1ーH)))
        = ーM ( log H+ 1 ー log (1ーH) ー1 )
        = ーM log H/(1ーH)
      log H/(1ーH) = ーεβ
      ⇐⇒ H/(1ーH) = eーεβ
      ⇐⇒ H = (1ーH) eーεβ
      ⇐⇒ H (1+ eーεβ ) = eーεβ
      ⇐⇒ H = eーεβ / (1+ eーεβ ) = 1 / (eεβ +1 )