Up アイヌ新法成立 作成: 2019-04-21
更新: 2019-04-23


    『先住民族法』──アイヌが先住民族として現前していることを定める法──が,「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」の名で,2019-04-19 に成立した。

    これまで論じてきたように,この法の本質は「利権」である:
      2019-04-19 読売新聞
    アイヌ新法成立
    「先住民族」明記
    アイヌ民族を「先住民族」と初めて明記した新法が19日の参院本会議で可決、成立した。アイヌ民族の生活向上や文化振興を図るための交付金制度や規制緩和が柱。近く公布され、1か月程度で施行される見通し。
    法律の名称は「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」。交付金は、地域住民との交流拠点の整備やアイヌ文化のブランド化などを進めるための市町村の各種事業に支給する。規制緩和では、アイヌの工芸品製造などが目的の国有林野での樹木採取や、伝統的儀式・漁法によるサケの捕獲などを認める。
    政府は今年度予算に交付金10億円を計上しており、事業費の80%を負担する。市町村負担分についても地方財政措置を講じる。
    菅官房長官は四日の記者会見で、新法がアイヌ民族を先住民族と初めて明記したことについて「我が国の共生社会の実現に向けた大きな前進と言える」と述べた。新法で自身を本部長とするアイヌ政策推進本部が内閣に設置されることにも触れ、「アイヌの方々の誇りが尊重される社会の実現に向けてしっかり取り組んでいきたい」と語った。
    採決にあたり、「近代化の過程で、多くのアイヌの人々が苦難を受けたという歴史的事実を厳粛に受け止め、アイヌの意向が十分反映されるよう」求める付帯決議も採訳された。

      同上,「道総合」版
    新法「国民の理解」定める
    新法では、、アイヌを先住民族と明記した上で、アイヌに対する差別や権利侵害を禁止した。国や自治体に対し、教育や広報といった活動を通じてアイヌに関する国民の理解を深めるよう定めている。また、アイヌが全国に暮らしていることにも留意し、「北海道だけの問題ではない」と指摘しているのもポイントだ。
    従来のアイヌ対策は、福祉政策のほか、「アイヌ文化振興法」に基づくアイヌ語の保護、古式舞踊など伝統文化の復興などに限られていた。
    だが、新法では地域振興や産業振興にも範囲を広げた。自治体によるアイヌ振興事業に交付金が支給されるほか、アイヌ関連産品に関する商標登録手数料の軽減や免除により、アイヌ文化のブランド化を図ることなどを目指している。こうした取り組みを通じ、アイヌの生活レベルを向上させる狙いだ。
    アイヌに関する理解を深める上で重要な役割を担う民族共生象徴空間 (ウポポイ) が白老町にオープンする2020年以降も、こうした施策が後退することがないよう、アイヌ政策推進本部 (本部長・官房長官)の設置も規定された。ウポポイを運営する指定団体についても、独立行政法人に準じるものとして国の責任を明確にした。


    (a) 交付金
    このうち,大きな額の交付金をつけられるのは,
     「 民族共生象徴空間 (ウポポイ) が白老町にオープンする2020年以降も、こうした施策が後退することがないよう」
    のところである。
    即ち,大規模箱物事業を途絶えさせないこと。

    例えば日高管内では,平取町静内町がこの役割を担うところとなる。
    平取町だと,「ハヨピラ」を「オキクルミ降臨の由緒ある場所」として用いることができる。
    ハヨピラについては,1960年代に「空飛ぶ円盤」に便乗した目先の観光をやってしまったことがあり,そのつけとして珍奇な廃墟をずっとさらすことになった。
    経費の都合からほったらかしになってきたわけであるが,この度の立法を機会にして,廃墟を壊して「民族共生象徴空間」につくり直すことができるようになる。


    (b)「アイヌ」観光
    つぎの文言で言っていることは,「アイヌ観光振興」である:
     「 規制緩和では、アイヌの工芸品製造などが目的の国有林野での樹木採取や、伝統的儀式・漁法によるサケの捕獲などを認める」
     「 アイヌ関連産品に関する商標登録手数料の軽減や免除により、アイヌ文化のブランド化」

    ここでブランド化しようとしている「アイヌの工芸品」「アイヌ関連産品」は,もともと「アイヌ観光」から出て来たものである。
    そのようなものはアイヌの生活の中には無かったものである。

    「アイヌ」観光は,<騙し>である。
    アイヌの様は,今の時代には真似しようとしてもできるものではない。
    アイヌを真似られる者はいない。
    アイヌのふりをする者がいるばかりである。
    しかし「アイヌ利権」は彼らあってこそのものである。
    彼らの存在は,大事に保たれねばならない。
    特に,アイヌ民族否定論の類から彼らを守っていかねばならないというわけである。

    そして,「アイヌ」観光の<騙し>は,「アイヌ」観光において問題にならない。
    ひとにとって「アイヌ」観光は,はなからテーマパーク・アミューズメント──仮構を楽しむ,騙されることを楽しむ──だからである。 
    実際,「アイヌ」観光に対する批判は,もっぱら "アイヌ" の方から出てくることになる:
      小川隆吉 (2015), pp.68,69
    そのころだ。
    アイヌを北海道観光の材料に使うのがはやっていた
    仲間が見せ物にされているのががまんできない気持ちでいた。
    早苗は、観光は仕事にしている人もいるんだから、あんた構うんでないと言っていた。
    羊ケ丘の展望台に登別の業者が売店を出していて、その地下の六畳くらいの部屋にアイヌの婆ちゃんが一人ぼっち座らせられていた。
    まわりにアイヌの着物がいっぱい下がっていて、観光客にそれを着せて一緒に写真を撮っていた。
    写真屋が一枚なんぼと売る。
    その婆ちゃんは口に入れ墨が入っていて、一階の売店に出てくるときはマスクをして出てくるんだ。
    俺はがまんできなくて、写真屋に向かって「これ以上続けるなら文書をもって抗議に来る」と言ったんだ。
    写真屋は土下座して謝った。
    婆ちゃんは仕事をなくした。
    全く早まったことをした。
    札幌支部長やって、企業組合も立ち上げて、のぼせてたんだ。



    引用文献
    • 小川隆吉 (2015) : 瀧澤正[構成]『おれのウチャシクマ──あるアイヌの戦後史』, 寿郎社, 2015.